2010年11月25日木曜日

シングルアンプのドライブ回路を考える

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

真空管アンプを自作しようとすると、2A3シングルなどは、真空管も主要部品も手に入りやすく、出力は小さめだけれど、大げさにならず手頃な感じがします。出力段の動作は、作りやすさから自己バイアスとなるのですが、ドライブ段については、いろいろ悩ましい所です。すこし、まとめてみようと思います。

直熱管リバイバルの最初の時期には、「2A3はバイアスが深くて振りにくい」と言われて、低rpの電圧増幅管でドライブする、というのが定番でした。ドライブ管としては、古典球では76とか、近代球では12BH7Aなどを用いて、ひずみの打ち消しを図る物でした。実際には低rpの中μ管ではゲインが足りないので、初段に6267の三結とか、12AX7にPG帰還をかけたものなどを加えて、三段増幅回路でアンプを構成するのを良く見たように記憶しています。現在では、その頃の回路そのまま、と言うのはあまり見かけませんが、サンオーディオやエレキットのシングルアンプのような、6SN7の2段増幅でドライブ、というのは定番のひとつのようです。この場合、初段と2段目は直結とするのが多いようです。6SN7は、12BH7Aよりも直線性が良いので、電源電圧を低めにして歪ませる、という事を意図しているのかも知れません。


ひとつ気になる点としては、ゲインが高めで、NFBなしではノイズが気になりそうだと言う点でしょう。十分なドライブ電圧を確保しつつ歪みの打ち消しをうまく行うためには、電源電圧を含めて、回路定数の慎重な決定も求められそうです。しかし、ドライブインピーダンスも低め(真空管によるが、数KΩ程度)であり、無難な回路と思われます。

最近のもっとも一般的なドライブ回路と思われるのは、高μ管を用いたSRPP回路です。


ドライブ電圧も高めに取れるし、部品点数も少なく、作りやすい回路なのだろうと思います。回路定数の決定が(あまり深く考えなければ)簡単なのも、人気の理由かと思います。SRPPは出力インピーダンスが低い、と言われているのですが、12AX7や6SL7のような高μ管では、実際には10K~20KΩの出力インピーダンスになるはずです。直熱出力管は入力容量が大きいのが普通ですから、ミラー効果もあり、ここで高域の帯域が決定する場合が多いように見受けられます。また、ドライブ能力(電流供給能力)も大きくはないので、出力管のグリッドリークは、せいぜい50KΩ、出力電圧を考えると100KΩ以上が妥当な所でしょう。これも、ある意味では無難な回路だけれど、性能的には限界があるようにも思われます。

この、SRPPの変形として、森川忠勇氏の設計するアンプで採用されている、SRPPとグリッドチョークを組み合わせる回路があります。


グリッドチョークの入手や設置場所の問題はありますが、上記のSRPPの問題点のうち、グリッドリークにかかわる問題点を解消している、という点で、とても面白い方法だと思います。一方、チョークのインダクタンスがそれほど大きくは取れない事(それにカップリングコンデンサーとの共振)から、低域特性に影響が出るのを注意して設計する必要があります。

最近見つけて、大変面白いと思っているのは、Tube CAD Journal のJohn Broskie氏考案の、いわゆる AIKIDO 回路です。


この回路は、球の数は多くなるのですが、電源ノイズの打ち消しをはじめとする、様々な美点があります。出力インピーダンスも低く、欠点は見当たりません(カソードフォロワー段に6SN7を用いた場合でも、出力インピーダンスは1KΩ以下になります。5687などを用いれば、(意味はないかも知れませんが)さらに低くなります)。強いて言えば、歪みが少なく、歪みの打ち消しを行うのが難しい、と言う点でしょうか?第一段目に6SL7あたりを用いればゲインも十分取れますし、ぜひ試してみたいドライブ回路です。

最近ノグチトランスのカタログを眺めていて気が付いたのですが、「カソードチョーク用」と書かれた内蔵チョークが(比較的)安価に販売されているようです。8mAほどの直流が流せる80Hのチョークです。直流抵抗も手頃な値で、以下のような回路で自己バイアスの直熱出力管を強力にドライブできそうです。



基本的にはカソードフォロワー直結ドライブと似ていますが、(自己バイアスだと)それほど強力に正のグリッド電圧領域までは振れない一方、負電圧も必要なく手軽で、しかも極めて安定な事が期待できます。カソードフォロワーの出力インピーダンスが低いので、インダクタンスによる低域の制限も、ほとんど問題になりません。高域(チョークの分布容量)についてはデータがないのですが、たぶん問題にならないと思われます。チョークの設置場所などに悩ましい点もありますが、これもまた、ぜひ試してみたい回路です。直結ドライブである事で、グリッドリークに関わる過渡特性の改善も期待できます。

(2007年09月16日)