2017年2月12日日曜日

Elekit TU-8340 (3) 一応の完成と、熱雑音に関する検討

基板さえ完成すれば、トランスを乗せて、いくつかのコネクターを接続すれば完成です。部品の交換などがあり、少し時間がかかりましたが、エレキットさんの対応も良く、問題なく作ることができました。

取り付けるトランスは、出力トランスとパワートランスです。



出力トランスは、たぶんアテネ電機製、5KΩのインピーダンスでUL接続用のSG端子付き、リード線にはコネクターがすでに付いています。パワートランスは、北村機電のRコアトランスで、300W級のコアではないかと思います。かなり重いです。



真空管を挿し、取り扱い説明書に従って、B電源の接続だけを外して、C電源(バイアス回路)A電源(ヒーター回路)のチェックをしているところです。全く問題なく動作していました。トランスのリード線にはコネクターが付いているので、配線はとても簡単です。


この状態でも、すべての電源を動作させれば音も出せて、電圧などのチェックができて便利ですが、エレキットさんとしては、感電の危険があるのでしないで欲しいようです。ここは、ひとまず取り扱い説明書に従って、真空管をいったん外し、カバーをつけて音出しをしました。


テスト用の、8cmのフルレンジをつないで、半自動バイアス調整を行い、音出しをしました。最初から、問題なく音が出ました。写真からもわかるように、かなり大ぶりで、スピーカーが小さく見えます。重量も17Kgと、それなりに重たいアンプです。

デスクトップの至近距離で聴くと、ハムノイズは全く聞こえないのですが、ボリュームを絞った状態でも、ホワイトノイズが少し気になります。高感度のフルレンジで鳴らしているせいもあるでしょうし、少し離れれば聴こえませんので、実用上は問題はないと思いますが、シングルアンプのTU-8200に比べても、はっきりとホワイトノイズは大きいことが聴感上で分かります。このような状況では、真空管の発生するノイズを疑うのが普通かもしれませんが、初段の12AT7を、東芝の通測用に替えても、ほとんど同じに聴こえます。(測定して比べるべきでしょうが、手元に電子電圧計がないので、残念ながら、あいまいな話になります。)

ホワイトノイズの発生する理由はいろいろとあるわけですが、少しだけ机上で追求してみます。最初に回路図を見たときから気になっていた、初段のグリッドに直列に入っている、27kΩの抵抗の発生する雑音の大きさを計算してみます。両グリッドに直列に入っている抵抗の値は54kΩなので、気温20度、20KHz帯域で抵抗の両端に発生する熱雑音は、約4.2μVと計算されます。アンプの増幅度については、測定しないと正確にはわからないのですが、オープンゲインの大まかな計算と負帰還抵抗の値から、57倍程度と推定されます(高感度なアンプです)。すると、大雑把な計算ですが、出力側には240μV程度の雑音が発生することになります。アンプの仕様を見ると、残留雑音は、聴感補正(A)をして180μVとなっています。実際にどのくらいこの部分の寄与があるのかは、いろいろ回路を変更して測定しないと分からないのですが、初段の抵抗の発生する熱雑音が無視できないことは確かなようです。(ちなみに、TU-8200の仕様では、残留雑音は90μVとなっています。)

低雑音増幅回路を作るには、回路インピーダンスを下げる、というのが常識なわけですが、真空管アンプは、どうしても高インピーダンスになりがちです。入力のボリュームの値も50KΩもあり、あまり気にしな場合が多いのですが、やはりここは、対策をしたほうがいいようにも感じます。グリッドの抵抗を(例えば)2.2KΩにすると、ここで発生する熱雑音は(上と同じ仮定で)約1.2μVと計算されます。同じ増幅度で、約68μVの残留雑音が発生することになり、かなり改善されます。アンプの増幅度を30倍くらいまで下げられれば、36μVとなり、ほぼ無視して良い感じになります。グリッド抵抗は負帰還回路の安定性にも関わるので、慎重に検討すべきところですが、ドライバー段を12AU7に替えるとオープンループゲインは約1/3、つまり約10dB減少します。そこで、負帰還回路の定数を変えて、アンプの増幅度を1/2、つまり約6dB減らすと、負帰還量は約4dB減ることになります。この状態でアンプの安定度がどうなるかは、実際にやって測定しないとわかりませんが、一つの可能性ではあります。

回路の改造は、測定器も必要ですし、いったんアンプを分解してプリント基板の部品を取り替える、ということになりますから、しばらくは今のアンプの状態で運用しながら、いろいろ考えてみようと思っています。増幅度を下げる意図で、ドライバー段を12AU7互換の5814Aに替えてみました。これで大幅に負帰還量が下がるわけですが、負帰還があるのでアンプとしての増幅度はあまり変わらず、雑音については目立った変化はありませんでした。しかし聴感上は、少し硬めの音だったのが伸びやかな感じになり、こちらのほうが私のシステムには合っている印象です。初段も(少しでも雑音を減らすことを意図して)東芝の通測用の12AT7WAに交換して、しばらく音楽を聴いていました。(いい感じです。)


この後で、出力管をSvetlanaの6550Cに替えたところ、やや緩すぎる印象で、電圧増幅段はオリジナルの12AT7、4本に戻しました。気のせいか、こちらの方がすっきりして良いように感じました。(でも、使い勝手としては、ちょっと高感度すぎる感もあります。)いろいろな出力管で同じ回路定数、というのは、なかなか難しいのかもしれません。EL34と6L6GCでは、相互コンダクタンスは2倍も違います。6550/KT88でも、バイアスが深い部分で使うことになりますから、動作点での相互コンダクタンスは、EL34の場合よりは小さくなっていると思われます。

上記のノイズも、実用上問題になるわけではありませんし、真空管の交換、回路をいじることを含めて、遊びどころの多いアンプです。とにかく、この規模の現代的な回路の真空管アンプが簡単に作れて、ハムノイズは皆無に近く、バイアス調整も半自動で簡単、それでこの価格、となると、ライバルはいない感じです。堂々とした大型アンプで、なかなか見栄えも良く、目の前に設置し、ある程度の大きさのスピーカーにつないで、ゆったりと音楽を聴くのに合ったアンプのように思います。(逆に、いろいろ比べていて、デスクトップオーディオなどの小型システム用アンプとしての、TU-8200の完成度の高さも再認識しました。)