2017年1月5日木曜日

Elekit TU-8200


エレキットのTU-8340の発表を見て、久しぶりにアンプを作りたくなりました。TU-8340の前に、手軽に作れそうなTU-8200を、手慣らしを兼ねて作ることにしました。6L6GCシングルという、初心者向きの真空管アンプキットですが、EL34/6CA7/KT-77や、KT-88/6550にも差し替え可能な、ひとつ手元に置いておくと楽しそうなアンプです。

回路は公開されていないので、購入して、見てみるのが楽しみでした。定数などの詳細は書きませんが、文章で説明してみます。電圧増幅回路は12AU7の2段増幅、CR結合で、固定バイアスの6L6GC等の出力管をドライブしています。バイアス回路は、比較的シンプルな、1個のトランジスターによる時定数の大きなフィードバックの定電流回路になっています。この出力管の電流値検知回路を用いて、OPアンプとフォト・カプラーによる過電流保護回路も付いていて、過電流が検出された場合はB電源をカットするようになっています。出力段の動作点は、過去の標準的な回路よりは、やや低電圧、大電流側に振ってあるようですが、シングルアンプなので、この辺が適当なのかもしれません。プレート電流を80mAくらい流しているようなので、オリジナルの6L6よりは、もう少し大きな出力管に合わせてあるのでしょう。基板上のジャンパーで、5極菅接続、UL接続、3極菅接続を切り替えられます。当面は、UL接続で試していますが、EL34や6550では3極菅接続を試すのも面白そうです(出力は下がる代わりに、やや歪みと出力インピーダンスが下がるはずです)。

エレキットらしく、電源回路がしっかりしています。B電源(主電源)は、両チャンネル独立にFETを用いたリップル・フィルターが入っており、さらに電圧増幅段にもチャンネルごと独立のFETによるリップルフィルターが入っています。計4個のパワーFETが用いられています。その代わり(たぶん、FETの負荷を下げる意味もあるのか)デカップリング・キャパシターは小さめです。A電源(ヒーター電源)は、電圧増幅段は直流点火になっています(安定化はされていません)。固定バイアスなので、もちろんC電源(負バイアス電源)も存在しますが、巻線から独立した回路です。このように、電源部が強化されているので、電源ノイズが小さく、真空管アンプとしては、とても静かなアンプになっているようです。

部品

箱を開けて最初に目につく大きな部品、そしてこのキットの最大のポイントは、プリント基板でしょう。これを折り分けて、幾つかの基板を作成します。



電源回路がやや大規模なので、電子部品は多めですが、丁寧に分けて袋詰めされており、親切です。(マスキング・テープによるメモは、自分で付けたものです。)


抵抗類は、大部分が5%級の1/2Wカーボン抵抗で、それより大きいものは酸化金属皮膜抵抗のようです。5%級ということで、バイアス回路などの正確さに不安があったので、バイアス回路に使う抵抗をいくつか測ってみました。だいたい1%誤差に収まっていて、よく揃っているようなので、選別もせずにそのまま使うことにしました。電解コンデンサーは、ほとんどが105℃のものでした。カップリング用のフィルム・キャパシターは、パナソニックのポリプロピレン・キャパシターで、高品質なものです。



出力菅は、Electro-Harmonixブランドの6L6GC(ロシア製)が付属しています。Amtransで検査、選別したものらしいのですが、よく揃っているようです。12AU7は中国製、Shuguangのものです。


出力トランスは、群馬県に本社のある、アテネ電機の製造のようです。


電源トランスは、エレキットでは定番の、北村機電のRコアトランスです。これが、一番重量のある部品です。全般に、しっかりした良い部品が使われています。

組み立て

最初に、主基板を組み立てます。抵抗だけで50以上の点数があり、シングルアンプとは思えない部品数ですが、間違えにくいように部品の配置が工夫されており、説明書もとても分かりやすいので、丁寧に作れば難度は高くないように思います。私は、入力側から回路を確認しながら部品を取り付けましたが、機械的に同じ値の部品を取り付けて行く方が、早いかもしれません。



主基板が出来上がると、こんな感じになります。電源部も含んで、主要回路のほぼ全てがこの基板上にあります。ここでは、説明書の「おすすめ」に従って、電圧増幅段のカソード・デカップリングの電解コンデンサーだけ、有機半導体コンデンサー(パナソニックのOSコン)に交換してあります。

他の基板は、インターフェイスや、切り替えスイッチのために分けてあるようです。


音量ボリュームやスイッチのためののサブ基板が右手前です。ボリュームは100KΩ、Bカーブの小型のものです(アルプス製)。大型のものに交換も可能なようですが、特に問題ないと思うので、キット付属のものをつけています。たぶん、チャンネル同士の誤差(ギャング・エラー)を嫌って(オーディオ用に普通に使われるAカーブではなく)Bカーブにしてあるのだと思いますが、特に使いにくさは感じません。基板の間は全てコネクターを用いるようになっており、ケーブルも付属しているので、ケーブル配線の半田付けは全くありません。


以上の部品をシャーシに組み上げると、こんな感じになります。立体的な構成で、少しアクロバティックな印象もありますが、問題ないようです。このままでも動作させることは可能ですが、高電圧がむき出しになり、危険ではあります。


カバーをつけて、完成した状態です。下の写真はキット付属の真空管、Electro-Harmonixの6L6EHと、Shuguangの12AU7のクローズアップです。真空管の品質に問題はないように感じました。


まとめ

全体に、作り易いながらも作り応えのある、とても楽しめるキットでした。出来上がったものも、ノイズが小さく、コンパクトで真空管の交換が簡単にできる、手元に置いて遊ぶのにぴったりのアンプになりました。音としては、半導体アンプに比べると制動が緩い、よく言えばリラックスした印象があります。出力が小さく歪みも多いはずで、やはり小編成の音楽が良く合いますが、複雑な音楽を聴けるだけのクリアーさも持っているようです。

キット付属の真空管に不満というわけではないのですが、せっかくなので、真空管を交換しました。出力菅は、Svetlanaブランドの6550C(Sロゴ)という現行生産品、電圧増幅管はアメリカ製のビンテージ管、SylvaniaのJAN-5814Aに交換してみました。音の違いはよく分かりませんが、外見の印象はかなり違い、こちらの方が私の好みかもしれません。