2017年1月21日土曜日

Elekit TU-8340 (1) 回路図からの考察

2016年11月末に発売された、エレキットの真空管アンプキット、TU-8340を入手しました。エレキット初のプッシュプル真空管アンプキットということで、期待の大きい製品です。回路図は公開されていないので、例によって、まずは回路を見るのが最初の楽しみ、ということになります。

回路構成の概略を(回路図を出さずに)説明してみます。出力段はEL34/6CA7のプッシュプルで、UL接続と三極管接続を切り替えられますが、UL接続をメインと考えているようです。切り替えはリレーを用いています。プレート電圧は370Vとやや低め、プレート電流の設定は60mAくらいのようなので、少し低電圧、高電流寄りの動作点です。出力管を変更しても、同じ動作点になるように、(このキットの売り物の、マイコンを用いた回路で)自動設定されます。

電圧増幅段は、12AT7/ECC81をチャンネルあたり2本用いたもので、「基本的には」2段差動増幅です。各増幅段の接続はCR結合で、直結段はありません。かつては、直結段により低域時定数を減らすことが設計者の腕の見せ所、という時代もあったと思うのですが、設計、測定技術が進歩して、逆に、低域時定数3段でも大丈夫、という感じなのでしょう。初段、ドライバー段、それぞれが共通化ソード回路にLM234を用いた定電流回路が接続されており、差動回路となっています。初段は約0.5mA、ドライバー段は約2.8mAのプレート電流の設定です。興味深いのは、定電流回路になっているにも関わらず、ドライバー段のカソードは電解コンデンサーでバイパスされていることです。ACバランスを考えると、バイパスしないほうがいいように見えるのですが、バイパスしたほうが出力電圧が取れる、などの理由からバイパスしてあるのかもしれません。

負帰還は、出力トランスの2次側から初段の差動回路のマイナス側に戻されており、コンデンサー2個を用いた、少し凝った微分型位相補正が行われています。やや悩ましく感じたのが、初段のグリッドに直列に入った抵抗の値です。回路図には2.2kΩとあるのが、27kΩと(常識的な値より)高いものに変更されています(マニュアルの訂正がオンラインで公開されています)。単なる回路図の間違いか、なんらかの理由で、ある時点で変更されたのか、気になるところです。このグリッド抵抗は、初段のミラー容量(帰還容量)とローパスフィルターを構成するので、帯域制限となる一方、負帰還回路を安定させる方向に作用します。当初は2.2kΩで設計されていて、安定度を上げるために抵抗値を変更したのかもしれません。2.2kΩにしたい誘惑も感じますが、やはり安全側に振って、説明書通りに組み立てるべきでしょう。

B電源は、TU-8200などと同様に、パワーFETによるリップル・フィルターを、4系統に用いたものとなっています。平滑コンデンサーから両チャンネルを独立させており、(出力段がAB級動作なだけに)セパレーションに気を使っている様子が伺えます。電圧増幅段は直流点火で、その回路から自動バイアス回路にも電源が供給されています。自動バイアス回路には正の12Vが供給されており、負電源ではありません。チャージポンプ型のDCDCコンバーターか、アイソレーション型のDCDCコンバーターを用いて負電源を作っているのだろうと思われます。マイコンを用いた自動バイアス回路については、完成品として供給されています。回路図と組み込みのプログラムを知りたいところですが、マニュアルには情報はありません。

回路を見ている段階で、他に気になるのは、抵抗の選択です。増幅段の抵抗は、ほぼすべて1/2W、5%級のカーボン抵抗です。ドライバー段のプレート抵抗は、約200mWの損失があるので、2倍半のマージンがあるとはいえ、温度上昇を考えると、1Wの酸化金属皮膜抵抗にしてもいいように感じます。また、出力間のカソードに入っている電流検知用の抵抗は、1%級で温度係数の低い金属皮膜抵抗を使いたいところです。この辺は、大きな問題ではないのですが、製作時まで悩むことになりそうです。

全体的には、面白いアイデアがあって、(キットとして、部品の種類を減らし作りやすくする、という制約のある中で)きれいに設計された回路だな、と感じました。