2012年12月16日日曜日

Behringer A500の回路について

スピーカーの自作をしていると、マルチアンプシステムの理論的な優位性をどうしても意識します。しかし、現時点では(コンスーマー向けの)マルチアンプ用の製品というのは、本当に「ハイエンド」で、極めて高価になります。一方、PA向けでは安価な製品も少なくなく、dBxやBehringerのPA向けの(安価な)製品を利用している人も多いようです。チャンネルディバイダーについてはBehringerやdBxで良いとしても、(複数必要な)メインアンプが問題です。コンスーマー向けの「メインアンプ」は高価なものしか無く、プリメインアンプをメインアンプとして利用する方が現実的なくらいです。そこで、PA/スタジオ向けのアンプはどうかというと、ほとんどのものは冷却ファンが有り、家庭のオーディオ向きとは言えません。

いろいろ見てみると、オーディオ用に使えるPA/スタジオ向けのファンレスのアンプとして、BehringerのA500、あるいはAmcronのD-45/D-75などが、(ネット上では)人気があるようです。特にA500は、極めて安価です。現時点で、サウンドハウスでは2万円を切っています。

http://www.soundhouse.co.jp/shop/ProductDetail.asp?Item=181^A500^^

大型のトロイダルトランスを使用した125Wx2(8Ω)のアンプとしては、信じられないほど安価ですが、品質管理の低さなど、賛否両論が有るようです。(音についても、当然予想されるように、賛否が分かれています。)

では、いったいどんな回路のアンプなのかと調べてみると、(非公式ですが)回路図が見つかりました。

http://user.faktiskt.se/bomellberg/A500/behringer_a500_single_channel.png

また、類似のアンプの回路として、QSC RMX 1450の回路も見つけました(これは公式)。

http://www.qscaudio.com/support/library/schems/rmx1450.zip

なにやら、見慣れない回路です。分かりにくいのですが、よく見てみると、(現在の)普通のオーディオ用のアンプとは、全く異なるトポロジーです。

基本的には、OPアンプの入力段の次に、インバーテッド・ダーリントン接続されたバイポーラー・トランジスターの出力段があるのですが、これは、エミッター接地(コレクター出力)になっていて、なんと電源レールをドライブしています。つまり、電源はフローティングで、中点は接地されていません。出力端子は正負の電源レールと大容量のコンデンサーで接続されていて、このコンデンサーは電源整流用と出力コンデンサーを兼ねています。したがって、原理的にACアンプで、直流は出力できません。もはや廃語ですが、OCL(output condenser less)ですらありません。フローティング電源ですから、当然LRは独立電源になります。なんとなく、真空管OTLアンプを連想させる、古典的なムードの回路です。

コレクター出力なので、出力段自体の出力インピーダンスは高く(したがって帯域は広くなく)、OPアンプ(NJM4580)のゲインによる深いNFBで性能を確保しています。安全性の高いACアンプ構成、高ゲインのOPアンプに、位相余裕を十分見込んだ位相補正をかける、という、「広帯域、ハイスピード」と正反対の設計です。QSC RMX 1450も同様のトポロジーなので、ひとつの標準なのかもしれません。

ここまで家庭用のアンプと違う回路設計だと、音質的にも違うことが十分予想できます。好奇心を強く刺激されるアンプです。安価だし、オモチャとして弄りがいがありそうです。

ちなみに、Amcron(Crown)のD-75の回路図も見つかりました。こちらは、電源の中点が接地された、もう少し普通の回路です(OCLです)。

http://www.saturn-sound.com/images%20-%20cct%20dia/crown%20dc75%20-%20stereo%20power%20amplifier%20-%20cct.gif

もっとも、入力段はOPアンプで、PNP, NPNのトランジスターによる電圧増幅段に続いて、非対称3段インバーテッド・ダーリントン接続の準(!)コンプリメンタリーSEPP出力段、NFBはDC100%帰還という、古典的な高ゲイン回路設計です。保守的というより、本当に昔の、素子の性能が低かった時代の設計に見えます。(生きた化石、という風情です。)これもまた、興味深い存在です(Behringerに比べると、少し価格は上がりますが。)

2012年12月15日土曜日

Z800-FW168HRの製作(4) 簡単な測定

一度ユニットを外して、どうするか考えました。結局、ネットワークの設置位置を少し修正し、推奨の量の吸音材を設置し、ユニット取り付けの穴のバリ(浮き上がり)を削って、後はほとんど変えずに組み直しました。推奨共鳴周波数になるようにダクトをカットして、スタンドの仕上げもして(これが一番時間がかかりました)、いちおう完成とします。スタンドとの間に10円硬貨のインシュレーターをはさむだけで、タイトな感じの音になります。

置き場所が極めて限定されているので、「オーディオ的」には無茶苦茶な設置で、音の善し悪しなんて言えるレベルではないのですが、それでもはっきりと広帯域、高解像度は分かります。正面に座って音楽を鑑賞する、などという時間は無い、オーディオ・ファンとは程遠い生活ですが、ぼんやりと聞き流す音楽の音が良いと生活が豊かになります。

iPhone上の定番の音響測定ソフト、AudioToolsのRTA(real time analyzer)を使って、簡単な測定をしてみました。音源はピンクノイズ、マイクはiPhone4Sの内蔵マイクで、測定値は不安定ですし目安程度ですが、チェックにはなります。

まずは、バックグラウンドノイズの測定です。このときは、かなり静かな状況でしたが、少なからず超低音騒音があります。都会のマンションでは、やむを得ないレベルとは思います。


次が、Z800-FW168HRからピンクノイズを流した測定結果です。

  

20Hz近辺はバックグラウンド・ノイズとあまり差がありませんが、30Hz辺りは音圧が結構出ています。100Hzあたりの凹凸は、部屋の特性が出やすい部分と思います(いずれにせよ、そう悪くはありませんが)。高域の8KHz以上の特性には、iPhoneの内蔵マイクの特性によるエラーがありそうです。特に、16KHzのピークは、何を測っても見られますから、明らかにマイクの特性です。

肝心のクロスオーバー付近(1~3KHz)は、素直につながっていて、全く問題ありません。という訳で、簡易測定では問題は見られませんでしたし、予想以上に低域は伸びていて目出たい限りです。

2012年12月11日火曜日

オーディオ自作ポータルの必要性

現在のオーディオの世界は、僕の目から見ると、かなり奇妙な状態に見えます。昔からの(自作に重心の近い)オーディオ雑誌、具体的には「MJ・無線と実験」と「ラジオ技術」は、読者、執筆者ともに高齢化が進み、若い人が読んでオーディオに夢を持つような雑誌ではなくなって来ているように思います。また、「ステレオ・サウンド」などの商業的な商品購入に重点を置いたオーディオ雑誌は、ますます「ハイエンド」指向を強めて、年齢が高めで経済的に余裕のある層にターゲットを絞った雑誌になっているようです。

一方、社会を大きく変えつつあるインターネット化は、旧来のオーディオの世界には、実は、あまり大きなインパクトを持っていないように感じられます。上記の雑誌の読者層、編集者層は、自然な成り行きとは思いますが、ネット上への移行を目指してはいないようです。もちろん、ネット上で積極的に自作・技術開発を公開している人たちは少なからずいるのですが、孤立している印象がありますし、ネットの始まりの熱気があった頃に比べると、下火になっているようにも感じられます。また、ネット上の「Audio Visual情報サイト」は、商業的・広告媒体的な傾向が強く、ある程度の科学性・客観性を求める(自作に近い、シリアスな)オーディオの世界とは、相容れないものを感じます(読者を広げ、広告で収入を得るためには止むを得ないとも思いますが、だからといって面白くなるわけではありません)。ネット上のオーディオ技術情報は、貧弱と言わざるを得ません。

思うこと、考えることは書ききれないほどあるのですが、とにかく、音楽が好きで、ものを作るのが好きで、自分の手をかけた装置で音楽を聴きたい、 という人のための情報を集めたサイトの必要性を、とても強く感じます。オーディオに興味の有る人を、自作オーディオに関わる様々な人々(特に、自作作品の情報)、会社(特にガレージメーカー)につなぐサイト、場合によっては交流を行える場が無い。頑張っている人たちはたくさん居るのに、それらをつなぐ場が無いのです。ここには、はっきりとした、"void"があります。「自然は真空を嫌う」というわけで、何かが為されなければいけない、と感じています。