2010年11月23日火曜日

6CA7の三極管接続について

(数年前、もう閉めてしまったブログに書いた文章です。 散逸しそうなので、メモ代わりにここに転記しておきます。)

6CA7(EL34)は、たぶん現在一番ポピュラーな出力(真空)管のひとつです。有名な所では、マランツ8Bに使われていて、このアンプではウルトラリニア接続と三極管接続が切り替えられるようになっています。このように、6CA7の三極管接続は高性能なことで定評があるのですが、たまたま、有名サイトである「ぺるけ」氏のウェブページで、6CA7の三極管接続のデータは間違っている、という話に出くわしました。具体的には、三極管接続の動作例が実際以上に高性能である、という事です。どういう事なのだろうと不思議に思い、少し調べてみました。

そこのページには、佐藤定宏氏の本に既に指摘されている、とあります。たまたま持っている本なので見てみると、そう露骨には書いていないのですが、実測した結果をもとに、ちがった動作点を求めて用いています(A2級動作なので、データシートの動作例とは一概に比べられませんし、テレフンケンの球と、シルバニアの球で特性が違う、という測定もしています)。他の本も見てみると、那須好男氏の本では、動作例に従ってシングル・アンプを組んでみるとそのような性能(出力6W)が得られない、と言う話が書いてあります。やはり特性を実測して動作点を計算し、出力4.8Wの動作例を得て用いています。(武末数馬氏の本もあると良いのですが、手元に見当たりません。)両者の実測例は(サンプルが違うので、もちろん微妙に違いますが)ほぼ同じような傾向を示しており、やはり、よく見かける6CA7の三極管接続(シングル)の動作例は少しおかしいようです(4.8Wと6Wの違いは約1dBなので、実際には大した違いではないのですが)。

インターネット上で手に入る幾つかのデータシートを見てみると、問題の動作例は、開発元のフィリップスの1958年のデータシートに既に載っています。この辺が出所なのは間違いないようです。ところが、興味深い事に1969年のフィリップスのデータシートには、この動作例は載っていません(三極管接続の動作は、全く載せられていません)。一方、Mullardのデータシート(1960年)には、動作例は載っていない代わりに特性曲線が載せられており、これは佐藤・那須両氏の測定結果とほぼ一致しています(つまり、正しいデータと思われます)。したがって、この特性から動作例を計算すると、シングル・6Wの出力は得られないはずです。どうやら、最初の三極管接続の動作例は間違っている、という事は、かなり早い時期に一部では知られていたのではないかと思われます。しかし一方では、(事情を知らない)松下などのデータシートには、最初の動作例がそのまま載せられ続けていた、という事情のように見えます。

フィリップスの最初の動作例がなぜ間違っていたか、と言うのは、もちろん分かりません。もしかすると、五極管接続の特性から三極管接続の特性を計算する簡易法が知られているので、それを用いた近似特性から計算した動作例だったのかもしれません。あるいは、実装したアンプでたまたまそうような性能が得られたのかもしれませんし、それほど細かい数字を問題にする時代ではなかったのかも知れません。

それはともかく、6CA7の三極管接続は、6G-A4の特性に極めて近い、と「ぺるけ」氏は指摘しています。確かに、6G-A4の特性曲線とMullardのデータシートの6CA7の三極管接続の特性曲線を比べてみると、かなり類似しており、ばらつきの範囲と言って良いくらいです。6G-A4は、東芝でしか製造していなかった真空管で、「玄人筋」には不評な真空管であった一方、アマチュアには使いやすく、とてもポピュラーな球でした(僕も、シングルアンプを作った事があります)。現在では入手が難しく、かなりのプレミアムがついて流通しているようです。代用管として、6AH4や6CK4が(一部で)もてはやされているようですが、実際はかなり性格の違う球ですし、入手性もそれほど良くありません。これらは、はるか昔に製造中止になったテレビ用の真空管ですから、オーディオ用に選別されたものもありません。6G-A4をポピュラーな6CA7/EL34で代用できるとなると、むしろ興味深い感じがします。さらに、6G-A4の最大プレート損失が15Wなのに対して、6CA7は25W~30W(第2グリッドの損失を入れるかどうかで、5Wのずれがでます)と一回り大きな球ですから、6G-A4の動作点で用いると余裕が十分あり、(真空管の交換が不要なくらいの)長寿命が期待できます。

6G-A4を6CA7で代用する事の難点は、電気的にはヒーター電力が2倍(6.3V0.75Aに対して1.5A)必要な事ですが、自作の場合はあまり問題ではないように思われます。むしろ、外形が一回り大きい(特に背が高い)ので、ムードがかなり違います。真空管アンプでは、外見の占めるファクターが大きいので、この辺がネックになりそうな気がします(少なくとも、僕には悩ましい感じがします)。何にせよ、どんなアンプを作れるか、と考えると夢が膨らむ話ではあります。

(2007年2月6日)