2010年11月28日日曜日

長岡鉄男氏の「素晴らしさ」

長岡鉄男氏の設計したスピーカー群には、「長岡教」と呼ばれるくらい、熱狂的なファンがいるわけですが、僕自身は、長岡氏がご存命の頃は、特にファンという訳ではありませんでした。でも、最近改めてスピーカーの製作に興味を持って、長岡鉄男「オリジナルスピーカー設計術」(全3冊)や、古い本などを読んでみると、とても面白いのです。

紙面から音は出ませんから、「音がいい」という事ではありません。いろんなスピーカーを、様々な思いつきで、次々に設計して作って見せている所が圧巻なのです。たぶん、ひとつひとつのスピーカーを、それほど細かくチューニングしている訳ではないと思いますし、「設計しっ放し」、「作りっ放し」という感じのスピーカーも多く見られます。「設計術」に載っているのは、長岡氏の設計したスピーカーの一部なのですが(ユニットの入手性の悪いものは省かれています)、この中にも、バランスの良くない設計は沢山ありそうです。

でも、とにかく、いろいろなアイデアを大切にし、設計してみて、(必ずしも自分でではなかったようですが)作ってみて、音を出して、音楽を聴き、測定してみる、という事を、おびただしく繰り返しています。その中から「スワン」のような有名なスピーカーが生き残っている訳です。でも、その旺盛な設計・製作活動、そのものが素晴らしいと感じます。どれかが、「いちばん音が良い」のではなく、それぞれに個性があり、それぞれの良さを味わう、という境地が感じられます。

細かい事に拘らず、とにかく思いつきを形にして作ってみる。出てきた音を楽しむ。こういう「おおらかさ」が、(僕にとっては)長岡鉄男氏のスピーカー群の最大の魅力です。「○○を○○万円のブランド品に替えたら音が変わった」というようなオーディオとは正反対です。たくさん作るには、そんなに高価なパーツは使えません。だから、「コストパフォーマンスが最高!」というのが決まり文句です。ちょっと、コミックスの「クッキングパパ」で、「食おうぜ、うまいぜ!」が決まり文句なのと、ちょっと似ています。「ネアカなオーディオ」というのは、貴重な存在でした。改めて、長岡氏の早すぎた死が惜しまれます。

長岡氏の設計したバックロードホーンを、いくつか作ってみたいと思っている今日この頃です。候補は、「スーパースワン」と、D-102です。どちらも10cmクラスのユニットですが、これ以上のバックロードは、ちょっと大きすぎて・・・。他にも、(人気はないようだけれど)チムニーダクトのフロア型2ウェイ、F-103ファーネスは興味を惹かれる設計のスピーカーです。オリジナルのユニットはすべて廃番ですが・・・。