2010年12月25日土曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:差動位相反転回路のまとめ

三種の真空管を用いた差動位相反転回路のシミュレーションをしたので、まとめてみます。
参考のために、7247(12AX7-12AU7)のPK分割回路のデータも入れました。

回路形式 増幅率 最大出力電圧[Vrms] 振幅1V出力時の歪み率[%] 振幅10V出力時の歪み率[%] 出力インピーダンス
12AX7差動3345(?)0.00050.009361.6kΩ
6FQ7差動738.70.00470.04810kΩ
6DJ8差動11.7330.00260.0263.8kΩ
7247・PK分割 53 30 0.041 0.41 5KΩ

こう見てみると、とにかく差動位相反転回路は低歪みで、(計算上は)大きな出力電圧が取り出せます。ここまで優れていると、モデルの限界が疑われるくらいです。特に、12AX7の場合は、極めて低歪みになります。12AX7を用いたPK分割に比べて二桁低くなっていますが、2次歪みがほとんど完全に打ち消されている事になっているので、このような数値になります。μの低い他の二種の真空管の場合は、打ち消しきれない2次歪みが歪みの主成分ですが、それでもかなり打ち消されていて、このような歪み率になってます。6DJ8の差動回路の場合は、180Vという低い電源電圧で、このような良い結果が得られていて、不思議なくらいです。

一方、増幅率は低めで、単純に増幅した場合の半分になり、出力インピーダンスは少し高めになります。 そう考えると、初段に高μ管の差動回路を用いて、2段目は高いインピーダンスで受ける、あるいは中μ管で低内部抵抗の真空管をドライブ段に用いる、という二通りの使い方が考えられる事になります。常識的な結論かも知れません。

差動「位相反転」回路で2次歪みが打ち消されない事は、上下の回路の動作が対称でないからですが、何故か意識していませんでした。 差動回路(OPアンプ)で言う、CMRR(Common Mode Rejection Ratio)が低い訳で、入力信号の半分がCommon Mode入力として入力されていると考えれば、それに応じた歪みが発生するのは当然の事です。ゲインを大きくすれば、Common Mode入力が小さくなるので歪みが減る、という事になります。

それにしても、差動回路で、実際にはどのくらいまで低歪みが得られるのか、興味深い限りです。