2010年12月20日月曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:Altec型のPK分割回路・再挑戦

前回の五極管を用いたPK分割回路については、今ひとつ納得のいかない部分もあったので、 原典である、Altec A-333AアンプのPK分割回路のシミュレーションをしてみる事にしました。回路は、以下のようになります:


初段の電圧増幅段は6SJ7で、位相反転段はオリジナルは6J5、ここでは同特性の6SN7を用いています。初段と2段目は直結で、初段のプレート電圧と2段目のグリッド電圧を合わせるために、動作点は微妙に調整しているものと思われます。6AU6のプレート電圧は87.3Vと、やや低めですが、五極管は低いプレート電圧でも大きな出力電圧が得られる傾向にあるようです。電源電圧は、285Vです。初段のカソードにはバイパス・キャパシターが無いので、電流帰還がかかっており、ゲインは54倍、34.7dBと(シミュレーションでは)なります。高μ三極管を用いた場合とほぼ同様のゲインですが、その分歪み率の低下を期待しているものと思われます。 オーバーオールの負帰還は、もちろん、初段のカソードにかかります。

歪み率を測定したものは、以下のようになりました。


入力振幅560mVの辺りでクリップが始まるようです。このとき歪み率は0.91%、出力電圧はP-Pで60V、実効値で約21Vとなります。電源電圧が285Vである事を考えると、前回の結果より少しだけ見劣りしますが、直結段があるために動作点が理想的でない、という事もあるかも知れません。クリップまでの歪みは、大部分が2次歪みです。

周波数特性は、次のようになりました。高域の-3dBのポイントは、約160kHzです。


さて、ここでは初段に直流帰還がかかっているので、カソードにバイパス・キャパシターを付け加えて、ゲインを増やすとどうなるかもシミュレートしてみました。回路としては、初段のカソード抵抗にパラレルに220uFのキャパシターを付けただけです。ゲインは108倍、約40.7dBと増大します。オリジナルの回路では、6dBの直流帰還がかかっていた事になります。歪み率は以下のようになりました。


点線はオリジナルのもので、実線が直流帰還の無い場合です。比較すると、直流帰還の無い場合の歪み率はずっと高く見えますが、出力電圧も2倍になっているので、それほどは変わりません。クリップはソフトで、はっきりとは分かりませんが、一応、入力270mV、歪み率1.23%の点を最大出力とすると、このとき出力電圧はP-Pで58.3V、実効値で約20.7Vという事になります。オリジナルの場合と、ほぼ同じ出力が(同様の歪み率で)得られる事になります。そうすると、電流帰還をかける意味は無いように思われますが、違いは、小出力の時の歪みで、負帰還量に応じた歪み率の低下が見られます。ちなみに、高域のカットオフ周波数(-3dBポイント)は、115KHzとなりました。五極管の出力インピーダンスはどちらも高いので、 ゲインが大きいと帰還容量の影響が大きくなるせいでしょう。