2010年12月21日火曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:PK分割位相反転回路のまとめ

三種類の組み合わせをシミュレートしたので、結果を表にまとめてみました。

回路形式 増幅率 最大出力電圧[Vrms] 振幅1V出力時の歪み率[%] 振幅10V出力時の歪み率[%] 高域のカットオフ周波数
12AX7-12AU7 53(34.5dB) 30 0.041 0.41 440KHz
6AU6-6FQ7 173(45dB) 26 0.03 0.30140kHz
Altec A-333A (6SJ7-6J5) 54(34.7dB) 21 0.026 0.26 160kHz

最初のふたつは、電圧増幅段と位相反転段の間をキャパシター結合にしているので、電圧配分が有利です。そのために、Altecの回路に比べて最大出力電圧が高く取れているのだろうと思います。Altecの回路は、直結になっているために、時定数がひとつ減る点でも有利です。しかし、位相反転段の入力インピ−ダンスは極めて高いので、実際上は時定数はとても大きく、問題にはならないはずです。むしろ、配線上の簡単さの方が大きなメリットかも知れません(その分、設計には注意が必要ですが)。

歪みに関しては、この表に載せた、出力電圧10Vまでの範囲では大きくは違いませんし、ほとんどが2次歪みである事も共通しています(歪みが出力に比例しているのは、それを表しています)。 いちばん歪みが少ないのはAltecの回路ですが、それは初段に約6dBの直流帰還がかかっているためです。そのため、増幅率は12AX7と同じくらいとなっています。(直流帰還が無くても、増幅率は108倍ですが、6SJ7の相互コンダクタンスが6AU6より低いためです)。

高域特性については、出力インピーダンスの低い三極管が、やはり有利です。一方、増幅率は、当然の事ながら、五極管の方が圧倒的に有利です。回路としての出力インピーダンスは、バランスが崩れない限り、十分に低いはずです。

まとめると、最大出力については、ちょっとした驚きがありますが、どの素子を用いても、定数を適切に選べば、傍熱出力管のドライブに十分な出力電圧、そこそこの低歪みは得られるようです。歪みの主成分が2次歪みで、出力電圧が大きい時はそれほど低歪みでない事が特徴で、シングル・アンプ的な趣があるかも知れません。