2010年12月19日日曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:Altec型のPK分割回路を試みる

前回は、高μの三極管と中μの三極管の組み合わせによるPK分割回路のシミュレーションでしたが、今回は、初段を五極管に取り替えて、いわゆるAltec型の回路を試してみました。増幅段は6AU6、位相反転段は6FQ7という組み合わせで回路を考えました。回路定数は、長真弓さんの記事でも用いられている、抵抗結合増幅回路データの動作例を用いました。回路は以下のようになります。


6AU6の出力にも電圧計を付けて、測定をしています。電源電圧は前回と同様に250V、軽い1MΩの負荷としています。ゲインは173倍、約45dBです。手作業で歪み率のグラフを作成したのが下のグラフです。


このグラフから見ると、クリップ点は入力振幅が220mVの辺りにあり、過渡解析で波形を見ても、そのように見えます。このとき、歪み率は約1.85%、出力の波形の振幅を測ると、P-Pで約73V、実効値で約26V(rms)です。ゲインは非常に大きく取れるのですが、最大出力については前回よりやや低く、少々期待はずれです。長真弓さんの記事では、五極管の最大出力が大きく取れる事を指摘しており、今回の結果とは、やや違うニュアンスになります。もっとも、五極管はシミュレーションをしていても、けっこうデリケートで、スクリーングリッド電圧の設定など、微妙な違いで特性が変わり、難しい部分があるようです。実装した回路では、真空管の特性もばらつくし、かなり違う結果になるのかも知れません。でも、P-Pで73Vというのは、実用上は悪くはないかと思います。歪みも、クリップするまでは低めです。

周波数特性は、以下のようになります。カットオフ周波数は約140KHzで、三極管の場合に比べると、電圧増幅段のインピーダンスの高さのために、早く減衰するようです。この辺は、実装すると、何れにせよ大きく異なる部分とは思います。このグラフの緑色のデータは、6AU6の出力電圧で、上下の出力電圧はばらつきはありません。低域のレスポンスの低下は、実は6AU6のカソード・バイパスキャパシターの容量不足です。330μFにすると、低域はほぼフラットになります。


実は、クリップは電圧増幅段で発生しているようなので、6AU6のカソード・バイパスキャパシターを省略し、電流帰還をかけてみました。そうすると、ゲインは約67倍と、高μ三極管と変わらなくなるわりに、最大出力辺りでの歪みは減らない感じです。電流帰還をかけるのは、あまりメリットが無いようです。

結論としては、(この回路、このシミュレーションでは) 五極管を使うメリットは高いゲインにあり、最大出力はあまり大きく取れない、という事のようです。五極管は動作点の設定が難しく、もっと追求してみる必要がありそうです。