2010年12月24日金曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:6DJ8の差動回路

いま現在、オーディオ用として、いちばん評価、人気の高い電圧増幅管は、6DJ8/ECC88ではないかと思います。もともとは高周波用真空管ですが、高い相互コンダクタンスと直線性の良さ、低雑音で、広く使われているフレーム・グリッド管です。私の知っている、オーディオでの最初の用例はMarantz#9ですが、むしろ注目を集めたのは、(ずっと後年に)Counter Pointのプリアンプで固定バイアスで使われた時のように思われます。6DJ8の差動回路で、どのくらいの性能が期待できるのか、シミュレーションをしてみました。

6DJ8は、基本的に低電圧大電流で使うべき真空管ですから、電源電圧を180Vと低くしてみました。 以下のような回路です。


定電流源は8mA、6DJ8のカソード電流は4mAとなります。プレートの電位は92V、カソードの電位は2.45V、実効プレート電圧は89.55Vです。6DJ8のプレート内部抵抗の低さを生かしてプレート負荷抵抗は22kΩと低く選び、 負荷抵抗は100kΩと重めに設定しました。この定数で、増幅率は約11.7倍、21.4dBとなります。歪み率は、以下のようになります。


一直線のグラフから分かるように、歪みの主成分は2次の高調波で、その理由は6FQ7の場合に説明した通りと考えられます。歪みの絶対値は、同じ出力電圧で比べると6FQ7の半分強くらいです。これは、増幅率の違いに、おおむね合っています。12AX7の差動回路よりは、低出力時にはずいぶん歪みが大きいですが、出力が大きくなると差が縮みます。1V出力(振幅)時の歪み率は0.0026%、10V出力時の歪み率は0.026%となり、十分に低歪みです。今回も、グリッドが正電圧の部分までクリップせずに計算されているので、グリッド電圧4V(2×2.45=4.9より0.9V低い電圧)まで入力できると仮定すると、最大出力電圧はP-Pで93V、実効値で約33Vrmsとなります。このとき歪み率は0.48%です。電源電圧が180Vである事を考えると、ずいぶん大きな出力電圧が低歪みで取り出せます。歪みの傾向としては、(電源電圧は低いにも関わらず)おおむね12AX7の差動回路と6FQ7の差動回路の間くらい、という事になります。

周波数特性を見ると、ここはかなり異なります。上記の回路で計算すると、周波数特性は以下のようになります。


カットオフ周波数は、上側が13MHz、下側が14MHzと、とても広帯域です。アンバランスの理由は、6FQ7の場合と同様で、少容量のキャパシターをカソードに加えれば解消されるはずです(実際上は、意味があるとは思えませんが)。さらに、出力に100pFのキャパシターを並列に付け加えても、カットオフ周波数は419KHzと、まだまだ広帯域です。さすがに高周波用の真空管です。この事から、出力インピーダンスは、約3.8kΩと計算されます。6DJ8が低内部抵抗で、強力なドライブの出来る真空管である事がよく分かります。

増幅率は高くありませんが、低い電源電圧で大きな出力電圧が取り出せ、 低歪みで低出力インピーダンスと、文句のない性能です。一方、これだけ高感度(高い相互コンダクタンス)の真空管は、寄生発振の防止などに気を遣う必要がある事も確かで、玄人向きの真空管かもしれません。