2010年12月30日木曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:6EM7のシングルアンプ

故・浅野勇氏の有名な「魅惑の真空管アンプ」の続編に、6EM7のプッシュプルアンプの製作記事が載っています。その準備として、6EM7のシングルアンプの実験回路と測定結果も載せられていますが、なかなか良い性能に見えます。類似管の6FM7でシングルアンプを作ろうか、などとも考えており、良く読んでいました。

本の付属のTINAには、中林歩氏の6EM7のモデルも入っているので、シミュレーションをしてみました。すると、ちょっと意外な感じの結果になりました。シミュレーションに用いた回路は、以下のようなものです。

出力トランスのモデルを用いると、回路制限の規模に引っかかるし、やや悩ましい部分もあるので、インダクターと抵抗を用いて、一次側だけ理想化したモデルを用いています。上記の回路図では、負荷インピーダンスを5kΩとしていますが、オリジナルの浅野氏の回路では7kΩで、他に2.5kΩの場合も試しました。

供給電圧は、オリジナルに合わせて290Vとし、他の抵抗値なども浅野氏の設計に従っています。ただし、第一ユニットのカソード抵抗の値は、記事中の回路図の1.3kΩは13kΩの間違いです。出力部の第2ユニットについては、バイアス電圧が約40Vとなり、ほぼ浅野氏の製作記事と合っています。第1ユニットの電圧増幅段については、バイアスが深く、電流をしぼった設定のせいか、いくらかズレがあります。やや電流が少なめで、バイアスは3.5Vと、一割強浅くなっています。しかし、真空管のばらつきは4割が許容差とされているそうなので、十分ばらつきの範囲内です。

電圧増幅段のゲインは約33dB、ほぼ44倍と計算されています。すると、入力電圧の振幅が1V(P-Pで2V)くらいでクリップするはずです。過渡解析で見ても、この辺までクリップしない事が観察できます。負荷インピーダンスを7kΩとすると、このとき約2.3Wの出力が得られます。しかし、これは浅野勇氏の3.5Wという出力よりも、かなり小さい結果です。また、歪み率も、ずいぶん大きくなります。一方、負荷インピーダンスを下げて、5kΩとすると、出力2.9W、2.5kΩとすると4.3Wの出力が得られます。 歪み率のグラフは、次のようになります。入力振幅1Vのクリップ直前までのデータを取っています。


はっきり分かるように、全体に歪み率は高めで2次高調波が支配的です。負荷7kΩの場合を浅野氏の測定結果のグラフと比べると、全体にかなり高めですし、2W以上の部分も測定されています。2W以上ではクリップしているはずなのですが、浅野氏の結果では、そこまで測定しているのかもしれません(その辺から、カーブが変化してて3次高調波が増えている事が伺えるグラフで、クリップしているのかもしれません)。歪み率の絶対値については、シミュレーションの不正確さかもしれません。第一ユニットのカットオフに近い部分では、モデリングより遥かに多くの歪みが発生し、打ち消しがうまく行っている可能性もあります。

しかし、何れにせよ、7kΩの負荷で3.5Wの出力は無理があるように思います。一方、負荷インピーダンスを2.5kΩまで下げると、歪み率はずっと増えますが、出力は4.3Wが得られ、出力トランスの2次側で3.5Wというのは現実的な値です。実際に、浅野氏の制作したプッシュプルのアンプでは5kΩの負荷を用いているので、4.3Wの2倍の出力で8W強が低歪みで得られる、ということで辻褄が合っているようにも見えます。もしかすると、入出力特性については、2.5kΩ負荷で測定したのかもしれません(プッシュプルアンプの実験回路としては、それが理に叶っていますし)。

というわけで、6EM7を一本だけ用いて、比較的低歪みで3.5Wの出力が得られる、というのは虫が良すぎる感じな事は分かりました。7kΩ負荷で(比較的)低歪みで出力は2W、あるいは2.5kΩ負荷で歪みは大きいけれど4Wの出力、という選択になります。もちろん、5kΩ負荷では中間的な結果になりますが、出力2.9Wでは、あまり面白くないかもしれません。

ところで、6EM7のプレート抵抗は、データシート上の値は750Ωとなっていて、浅野氏もそれを引いています。でも、上の動作点では、データシートの動作例よりも電圧が高く電流は少ないので、違った値になります。簡単なシミュレーションで計算してみると、ほぼぴったり、1kΩになります。すると、負荷インピーダンスが7kオームだとDF(ダンピングファクター)は7、2.5kΩで2.5となり、けっこう良い値です。ここは出力を望まず、7kΩか5kΩの負荷インピーダンスでシングルアンプを作ると、それなりに魅力的なアンプになるかもしれません。また、2次高調波の打ち消しが期待できるプッシュプルの方が適性がありそうな事も、よく分かるシミュレーション結果です。その場合も、負荷インピーダンスは8kΩくらいに取った方が、(無帰還なら)歪みやDFのバランスが良いような気もします。

2010年12月29日水曜日

音と素材についての覚え書き

私は普通、あまりオーディオ装置の素材、という事には拘らないのですが、ふと感じた事があります。新しいD級アンプ(TDA7471)を少し鳴らしてみようと思って、(音は期待せずに)卓上に8cmフルレンジスピーカーを置いて音楽を聴いていたところ、ジャンルによっては、箱庭的なスケールですが、緻密で、かなり楽しめる音で鳴るのです(高忠実度、いわゆるハイファイかは疑問ですが)。

 このとき使っていたスピーカーは、FE87Eという小さなユニットをフィンランド・バーチ合板の箱に入れたものです。そして、スピーカーを置いていたテーブルは、(古くてボコボコですが)デンマーク製のムクのアッシュ(トネリコ)のものです。かなり、テーブルの反射のきつい置き方をしていたのですが、フロア型スピーカーを、しっかりした床に置いたのを、縮小した様な状況かも知れません。普通の小型スピーカーを、オフィス用のデスクに置いて鳴らして落胆した時とは、ずいぶん違います。小さな音量でしか聴かないのですが、それでもやはり、音を鳴らす環境には、素材の響きの良さが大きな影響を持つのかも知れません。(スピーカーに限らず)部屋の壁面を、ムクの良い木材で作ると、音響的にも良いものに出来る可能性が大きいのかも知れません(経済的に、非現実的ではありますが)。

2010年12月28日火曜日

GEの6FQ7/6CG7

某所で、GEの6FQ7/6CG7を、(プレミアムのついていない)普通の値段で売っていたので、数本買ってきました。同特性の6SN7-GTは、アメリカ製の真空管が市場から払底して(あるいは極めて高価になって)しばらく経つのですが、MT管は人気がないらしく、6FQ7ならば(探せば)まだあるようです。私には「鑑識眼」もありませんし、チェックされた真空管かどうかも分からないので、「良い買い物」かどうかは分からないのですが、自分として楽しめればそれで十分です。6FQ7なら使い道はいくらでも考えられるし、手許にあるだけでも悪くありません。


以前に入手した、同じGEの6FQ7に比べると、ガラス管がきれいな状態で、印刷もはっきりしています。はっきり見える印刷の下に、「6FQ7/6CG7/USA」という焼き付けの印字が見えます(GEの真空管の特徴のひとつのようです)。


こんな箱に入っています。GEの民政向けの真空管の箱です。ちょっと、アールヌーボー/アールデコ的で、ムードがあります。

2010年12月27日月曜日

TDA7491KIT(配線と完成)

先日のブログでケース加工について書いた、TDA7491KITの配線をしました。もちろん、大した配線ではないのですが、意外とコネクターの圧着に苦労しました。入力部分に用いられている、JSTのXHコネクターはとても小さく、さらにバネ部分が折れやすく、慣れない上に目が良くないので、悪戦苦闘してしまいました(もちろん、圧着ペンチは用いています)。出力、電源の(VH)コネクターはともかく、入力については直接ハンダ付けした方が無難かも知れません。入出力の極性については、カマデンの説明書はやや分かりにくく、注意が必要です。

配線をして、簡単なチェックをした後、ACアダプターをつないで音出しをしました。特にトラブルなく、動いています。


目を覆いたくなるような配線ですが、とりあえず動いているので、いい事にします。チャンネル・セパレーションについては、あまり考慮していない配線ですが、インピーダンスが低めなので、たぶん大丈夫でしょう。


電源には、3300μF25Vの電解コンデンサーをパラレルに付けています(おまじないの様なものです)。ACアダプターは、秋月電子で購入した、45W級、15V3Aの物を用いています。


ボリュームは、10kΩ(A)の2連です。入力部の配線は、シールド線を用いるべきかも知れませんが、面倒なので、普通のビニール被覆線で行いました。入力側はAWG24、出力側と電源はAWG20の架橋ポリエチレン線を用いましたが、あり合わせのものを用いたので、色の分類はかなりいい加減です。

低価格のD級アンプという事で、広帯域なスピーカーにつなぐのは、ちょっとためらわれますが、iPhone等からの出力をフルレンジのスピーカーにつなぐのにはぴったりです。とりあえず、便利に使えそうです。

2010年12月26日日曜日

こんなスピーカーを作りたい:DCU-171K2のフロア型スピーカー

PARC Audioの17cmのケブラー・コーン・ウーファー、DCU-171K2が製造中止になる、というお話で、これも購入してしまいました。どう見ても、ハイスピードで強力な、本格派のウーファーです。


これをどう使うか、という事を考えていて、最初は、正統派のユニットなので、標準的なブックシェルフの箱に入れるのが良いかな、と考えていたのですが、だんだん、フロアタイプのスピーカーが欲しくなってきました。このクラスのブックシェルフ・タイプのスピーカーは、結局はスタンドも作る事になり、場所的にも、手間的にも、トールボーイ・タイプのフロア型スピーカーに比べて有利とは思えなくなってきました。商品としての流通上は、小型になるし、いろいろメリットがあるとは思うのですが、自分で作って自分で使う分には、関係ありません。

むかしから、長岡鉄男氏の設計した「ファーネス」というフロア型スピーカー(のスタイル、設計の狙い)が好きだったので、それに沿って設計を考えてみました。底面積は小さく、背は高く、という方向でプロポーションは変更しました。私自身は、音源位置が高めの方が使用状況(椅子に座って聴く)に合っていますし、省スペースです。現時点では、以下のような設計を考えています。


ボックス部分の容量は約30L、高さは63cmですが、その上に長さ41.5cmのチムニー・ダクトを付けています。ダクトは9cm×9cm=81cm^2の断面積、ウーファーの有効振動板面積の67%に及びます。断面積も大きいですが、長さも43cmと長大なので、fdは約40Hzとなります。チムニーダクトの外形の幅は12cm×12cmで、そこにツイーターのDCU-T111S(PARC Audio)を2本、縦に並べます。いくらか、ウーファーとツイーターの振動板位置を合わせる事も意識しています。spedを用いた、低域特性のシミュレーション結果は、以下のようなものです(箱のサイズだけ合わせて計算しました):


ツイーターは、2本を直列につないで用いる事により、能率は約3dB下がり、耐入力は4倍になる計算になります。計算上は、ウーファーの能率より、0.5dB低くなる事になりますが、実際上は、ツイーターの方がまだ能率が高い可能性もあります。いずれにせよ、アッテネーターなしで行けるか、まずは試す事になります。ネットワークは、以下のようなものを考えています:


単純な6dB/oct.のネットワークです。帯域的には余裕があるし、ツイーターは直列になっているので、耐入力の問題はあまりないだろうと思います(私自身は、あまり大音量では聴きませんし)。ツイーターは12Ωのインピーダンスで計算して、カットオフ周波数は1.95kHzです。ウーファーは、インピーダンス上昇を考慮して8Ωと考えて計算して、1.59kHzのカットオフ周波数になります。ややスタガー気味になりますが、ウーファーは2kHzあたりに少し盛り上がりがあるので、このくらいでバランスが取れそうな気がします。6dBクロスだと、正相でも逆相でも良いはずなのですが、スタガー気味なので、逆相接続の方が良さそうです(分かりませんが)。ツイーターを2本使うと、超高域で減衰するので、それを補う必要があるかも知れません。「ファーネス」に倣って、下側のユニットに1μFくらいのコンデンサーをパラレルにつないで、上のユニットの高域を伸ばすと良いかも知れません。この辺は、鳴らしてみてのバランス次第でしょう。

木材は、15mm厚のサブロク合板で1+1/3枚で、以下のような板取を考えています。(無駄のない板取を考えて、上のサイズは微調整してあります。)15mmでは薄めなので、補強をかなりする予定で、その分も入っています。



さて、どんな結果になるかは、やってみなければ分かりません。楽しみです。

2010年12月25日土曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:差動位相反転回路のまとめ

三種の真空管を用いた差動位相反転回路のシミュレーションをしたので、まとめてみます。
参考のために、7247(12AX7-12AU7)のPK分割回路のデータも入れました。

回路形式 増幅率 最大出力電圧[Vrms] 振幅1V出力時の歪み率[%] 振幅10V出力時の歪み率[%] 出力インピーダンス
12AX7差動3345(?)0.00050.009361.6kΩ
6FQ7差動738.70.00470.04810kΩ
6DJ8差動11.7330.00260.0263.8kΩ
7247・PK分割 53 30 0.041 0.41 5KΩ

こう見てみると、とにかく差動位相反転回路は低歪みで、(計算上は)大きな出力電圧が取り出せます。ここまで優れていると、モデルの限界が疑われるくらいです。特に、12AX7の場合は、極めて低歪みになります。12AX7を用いたPK分割に比べて二桁低くなっていますが、2次歪みがほとんど完全に打ち消されている事になっているので、このような数値になります。μの低い他の二種の真空管の場合は、打ち消しきれない2次歪みが歪みの主成分ですが、それでもかなり打ち消されていて、このような歪み率になってます。6DJ8の差動回路の場合は、180Vという低い電源電圧で、このような良い結果が得られていて、不思議なくらいです。

一方、増幅率は低めで、単純に増幅した場合の半分になり、出力インピーダンスは少し高めになります。 そう考えると、初段に高μ管の差動回路を用いて、2段目は高いインピーダンスで受ける、あるいは中μ管で低内部抵抗の真空管をドライブ段に用いる、という二通りの使い方が考えられる事になります。常識的な結論かも知れません。

差動「位相反転」回路で2次歪みが打ち消されない事は、上下の回路の動作が対称でないからですが、何故か意識していませんでした。 差動回路(OPアンプ)で言う、CMRR(Common Mode Rejection Ratio)が低い訳で、入力信号の半分がCommon Mode入力として入力されていると考えれば、それに応じた歪みが発生するのは当然の事です。ゲインを大きくすれば、Common Mode入力が小さくなるので歪みが減る、という事になります。

それにしても、差動回路で、実際にはどのくらいまで低歪みが得られるのか、興味深い限りです。

2010年12月24日金曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:6DJ8の差動回路

いま現在、オーディオ用として、いちばん評価、人気の高い電圧増幅管は、6DJ8/ECC88ではないかと思います。もともとは高周波用真空管ですが、高い相互コンダクタンスと直線性の良さ、低雑音で、広く使われているフレーム・グリッド管です。私の知っている、オーディオでの最初の用例はMarantz#9ですが、むしろ注目を集めたのは、(ずっと後年に)Counter Pointのプリアンプで固定バイアスで使われた時のように思われます。6DJ8の差動回路で、どのくらいの性能が期待できるのか、シミュレーションをしてみました。

6DJ8は、基本的に低電圧大電流で使うべき真空管ですから、電源電圧を180Vと低くしてみました。 以下のような回路です。


定電流源は8mA、6DJ8のカソード電流は4mAとなります。プレートの電位は92V、カソードの電位は2.45V、実効プレート電圧は89.55Vです。6DJ8のプレート内部抵抗の低さを生かしてプレート負荷抵抗は22kΩと低く選び、 負荷抵抗は100kΩと重めに設定しました。この定数で、増幅率は約11.7倍、21.4dBとなります。歪み率は、以下のようになります。


一直線のグラフから分かるように、歪みの主成分は2次の高調波で、その理由は6FQ7の場合に説明した通りと考えられます。歪みの絶対値は、同じ出力電圧で比べると6FQ7の半分強くらいです。これは、増幅率の違いに、おおむね合っています。12AX7の差動回路よりは、低出力時にはずいぶん歪みが大きいですが、出力が大きくなると差が縮みます。1V出力(振幅)時の歪み率は0.0026%、10V出力時の歪み率は0.026%となり、十分に低歪みです。今回も、グリッドが正電圧の部分までクリップせずに計算されているので、グリッド電圧4V(2×2.45=4.9より0.9V低い電圧)まで入力できると仮定すると、最大出力電圧はP-Pで93V、実効値で約33Vrmsとなります。このとき歪み率は0.48%です。電源電圧が180Vである事を考えると、ずいぶん大きな出力電圧が低歪みで取り出せます。歪みの傾向としては、(電源電圧は低いにも関わらず)おおむね12AX7の差動回路と6FQ7の差動回路の間くらい、という事になります。

周波数特性を見ると、ここはかなり異なります。上記の回路で計算すると、周波数特性は以下のようになります。


カットオフ周波数は、上側が13MHz、下側が14MHzと、とても広帯域です。アンバランスの理由は、6FQ7の場合と同様で、少容量のキャパシターをカソードに加えれば解消されるはずです(実際上は、意味があるとは思えませんが)。さらに、出力に100pFのキャパシターを並列に付け加えても、カットオフ周波数は419KHzと、まだまだ広帯域です。さすがに高周波用の真空管です。この事から、出力インピーダンスは、約3.8kΩと計算されます。6DJ8が低内部抵抗で、強力なドライブの出来る真空管である事がよく分かります。

増幅率は高くありませんが、低い電源電圧で大きな出力電圧が取り出せ、 低歪みで低出力インピーダンスと、文句のない性能です。一方、これだけ高感度(高い相互コンダクタンス)の真空管は、寄生発振の防止などに気を遣う必要がある事も確かで、玄人向きの真空管かもしれません。

2010年12月23日木曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:6FQ7の差動回路

出力管のドライバーとして代表的な真空管は、やはり6FQ7/6CG7/6SN7でしょう。マランツ#7でも、カソード結合でドライバー管として用いられている訳ですが、差動回路でどのような性能を示すのか、12AX7に続いて、シミュレーションをしてみました。回路は以下のようなものを用いました。


定電流源は5mAですから、各6FQ7のカソード電流は2.5mAになります。電源電圧は、前回までと同様に250V、プレート負荷抵抗は47kΩとしたので、プレート電圧は132.5Vになります。このとき、カソード電圧は4.85Vになりました。したがって、実効プレート電圧は127.65Vという事になります。 出力の負荷抵抗は100kΩですから、わりと重めの負荷という事になります。この定数で、増幅率は約7倍、16.9dBとなりました。歪み率は、以下のグラフのようになります。
 

点線は、負荷抵抗を1MΩとした時の特性で、やはり歪みは低下しますし、それは出力電圧が大きい時に顕著です。きれいな一直線の歪み率ですが、絶対値は低く、やはり差動回路は低歪みである事が分かります。最大出力電圧については、過渡解析で波形を見ても、10Vまでの範囲ではクリップは確認できません。入力振幅10Vのときの歪み率は1.17%となりますが、このとき、グリッドは正の領域に振り込んでいます(4.85×2=9.7Vでグリッドは0電位となります)。実際は、グリッド電流の制限で、ここまでは振れません(シミュレーションは、意味を持ちません)。グリッド電流が流れない安全な入力電圧として、(控えめに)8Vを最大入力電圧の目安とすると、この時の歪み率は0.62%、出力電圧はP-Pで109V、実効値で38.7Vrmsとなります。重い負荷と低い電源電圧の割には、高い出力が得られています。低レベルでの歪み率は、出力の振幅1Vのとき0.0047%、10Vのとき0.048%と、十分に低歪みです(超低歪みな12AX7の差動回路の場合よりは、5倍〜10倍大きい歪み率ですが、PK分割の回路よりは、一桁低くなります)。

この歪み率のグラフを見ると、入力1Vくらいまでは、ほぼ入力電圧に歪み率は比例しています。という事は、2次歪みがほとんどである事が推測されますが、実際にそうなっています。 「差動回路では2次歪みは打ち消されるはずではないか?」と思われるので、不思議な気がします。でも実際には、差動回路でも入力はバランスしていないので、実際には、上側のユニットと下側のユニットの動作点は、グリッド入力電圧の分だけバランスが崩れています。12AX7のような高μの真空管ではグリッド入力が小さいので影響は少ない訳ですが、6FQ7のような中μの真空管ではこの動作点の違いが無視できず、歪みの主要部分は、このアンバランスから来ているようです。中μの真空管の差動回路でさらに低歪みを追求するには、信号もバランスして入力する必要がある事が分かります。実際に、上下の6FQ7のグリッドに逆相の入力を入れて測定すると、2次の歪みはほとんど打ち消されて、振幅±1Vの入力のとき0.0036%の歪み率が得られます(入力電圧を合わせると約1/10、出力電圧を合わせると約1/20になります)。森川忠勇氏がよく用いている2段差動回路には、歪みの上のメリットがある事が分かります。また、武末数馬氏の「完全バランス・アンプ」において、入力トランスを用いて超低歪み率を実現していたのも、差動回路ではそこまで低歪みにならない、という事だったのかも知れません。

周波数特性は、以下のようなシミュレーション結果になります。

高域(200KHz以上)で、上下の出力のバランスが崩れています。これは、G-K容量の影響で、高域で上側の6FQ7のカソード出力が上昇するためのようです。定電流源に並列に、8pFのキャパシターを加えると、ほぼ完全にバランスが取れます。上のグラフの状態で、上側のカットオフ周波数が約3.9MHz、下側が4.6MHzです。8pFのキャパシターでバランスを取ると、両チャンネルとも、カットオフ周波数は4.2MHzになります。何れにせよ、実装した回路では分布容量などで見えないレベルと思います。例えば、出力の両方に47pFのキャパシターを負荷すると、カットオフ周波数は340KHzに、100pFで166KHzになります。この辺が現実的な状況でしょう。出力インピーダンスは、おおむね10KΩと推定されます。

6FQ7は古典的な真空管ですが、差動回路で用いると、低歪みで比較的強力なドライブ段となる事が分かります。

2010年12月22日水曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:12AX7の差動回路

前掲の、長真弓さんの「無線と実験」(2003年12月)の位相反転回路の記事では、差動型の位相反転回路についても取り上げられていて、6AU6と12AX7の差動回路について実験をしています。長真弓さんは、あまり差動回路は好きではないようで、「最大出力はPK分割と同じくらいしか得られないし、ゲインは低いし、出力インピーダンスは高い」と、どちらかと言うと否定的な評価をしています。

私自身は、(三極部が12AX7と同じ)6GW8の差動回路を用いたアンプの製作記事で、その性能の良さに強い印象を受けた経験もあり、12AX7の差動回路は、かなり良いのではないかと考えていました。長真弓さんの実験回路を見ると、プレート負荷抵抗は100kΩ、歪み測定時の負荷は100kΩで、実質的に50kΩの負荷で測定しています。rpが100kΩくらいある12AX7には、どう考えても重すぎる負荷ですし、定数の選び方にも工夫の余地がありそうです。そこで、TINA7で、以下のような回路でシミュレーションをしてみました。


電源電圧は250V、定電流源は1mAで、12AX7のカソード電流は0.5mA、プレート負荷抵抗は220kΩとしています。カソードバイアス電圧は、この状態で1.39V、プレートの電位は140Vとなります(プレート電圧は138.61V)。電圧ゲインは30.3dB、約33倍で、当然、差動にしない場合の半分です。歪み率の測定結果は、以下のようになりました。


驚くほどの低歪みです。入力信号の電圧振幅が1Vの時に歪み率は0.1%以下、この時の出力電圧は、実効値で23.4Vです。入力信号の振幅が2.7Vの時には、過渡解析の波形で見る限りまだクリップしていないようで、このとき歪み率は1.47%となります。バイアス電圧が1.39Vで2.7Vの入力信号が入るのはおかしい、と一見思われますが、カソードに負帰還がかかっているので、実際のグリッド入力電圧はその約半分になります。でも、グリッド電流が流れ始める領域ですから、実際に、ここまで信号が入れられるかは微妙です。このとき、出力電圧はP-Pで(なんと)167V、実効値で59V(rms)となります。もう少し現実的に、グリッド入力2Vが限界と考えて計算すると、出力電圧はP-Pで128V、実効値で約45V、このとき歪み率は0.48%となります。出力の電圧振幅が1Vの時の歪み率は0.0005%、10Vの時の歪み率は0.0093%と計算されます。ほとんど、非現実的な歪み率です。出力に比例しないのは、奇数次の成分が少なくないためです。(2次歪みも残っています。)

周波数特性については、高域のカットオフ周波数は1.28MHzとシュミレートされます。でも、これも、かなり非現実的です。例えば、信号源インピーダンスを1kΩと考えて、入力に1kΩの抵抗を入れてシミュレートすると、12AX7のミラー容量のために、カットオフ周波数は876kHzになります。また、出力インピーダンスが高いので、負荷に47pFのキャパシターを並列に入れると、カットオフ周波数は55kHzとなりました(出力インピーダンスは、61.6kΩという事になります)。周波数特性については「インピーダンス相応の減衰があるけれど、回路自体は広帯域」と考えて良さそうです。

以上のシミュレーションは、あまりにも出来すぎている感じがします。第一に、(上に書いたように)グリッド電流による入力の制限を考えていませんから、ここまで入力を(歪ませずに)入れられるかは良く分かりません。次に、真空管のマッチングの問題があります。シミュレーションでは、完全に同じ真空管の組み合わせなので、偶数次歪みの打ち消しは理想的に行われるのですが、実際はばらつきがあり、それほどうまく打ち消される訳ではありません。しかし、最近はユニットの(gmの)マッチングをした双三極管が販売されている場合もあるようですし、それなりに選別すれば良い線に行くかも知れません。定電流源については、それほどシビアではなさそうです。定電流源に並列に抵抗を入れてみても、それほど大幅には結果は変わりません。

結論としては、差動回路による位相反転は、うまく作れば、かなり低歪み、高出力電圧が望める回路のように思われます。12AX7では、高出力電圧を望むのは虫がよすぎるかも知れませんが、出力20Vrms程度までは、問題なく低歪みのドライブが出来そうです。出力管ドライバーとしては、他の真空管も試してみたいと思います。

2010年12月21日火曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:PK分割位相反転回路のまとめ

三種類の組み合わせをシミュレートしたので、結果を表にまとめてみました。

回路形式 増幅率 最大出力電圧[Vrms] 振幅1V出力時の歪み率[%] 振幅10V出力時の歪み率[%] 高域のカットオフ周波数
12AX7-12AU7 53(34.5dB) 30 0.041 0.41 440KHz
6AU6-6FQ7 173(45dB) 26 0.03 0.30140kHz
Altec A-333A (6SJ7-6J5) 54(34.7dB) 21 0.026 0.26 160kHz

最初のふたつは、電圧増幅段と位相反転段の間をキャパシター結合にしているので、電圧配分が有利です。そのために、Altecの回路に比べて最大出力電圧が高く取れているのだろうと思います。Altecの回路は、直結になっているために、時定数がひとつ減る点でも有利です。しかし、位相反転段の入力インピ−ダンスは極めて高いので、実際上は時定数はとても大きく、問題にはならないはずです。むしろ、配線上の簡単さの方が大きなメリットかも知れません(その分、設計には注意が必要ですが)。

歪みに関しては、この表に載せた、出力電圧10Vまでの範囲では大きくは違いませんし、ほとんどが2次歪みである事も共通しています(歪みが出力に比例しているのは、それを表しています)。 いちばん歪みが少ないのはAltecの回路ですが、それは初段に約6dBの直流帰還がかかっているためです。そのため、増幅率は12AX7と同じくらいとなっています。(直流帰還が無くても、増幅率は108倍ですが、6SJ7の相互コンダクタンスが6AU6より低いためです)。

高域特性については、出力インピーダンスの低い三極管が、やはり有利です。一方、増幅率は、当然の事ながら、五極管の方が圧倒的に有利です。回路としての出力インピーダンスは、バランスが崩れない限り、十分に低いはずです。

まとめると、最大出力については、ちょっとした驚きがありますが、どの素子を用いても、定数を適切に選べば、傍熱出力管のドライブに十分な出力電圧、そこそこの低歪みは得られるようです。歪みの主成分が2次歪みで、出力電圧が大きい時はそれほど低歪みでない事が特徴で、シングル・アンプ的な趣があるかも知れません。

2010年12月20日月曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:Altec型のPK分割回路・再挑戦

前回の五極管を用いたPK分割回路については、今ひとつ納得のいかない部分もあったので、 原典である、Altec A-333AアンプのPK分割回路のシミュレーションをしてみる事にしました。回路は、以下のようになります:


初段の電圧増幅段は6SJ7で、位相反転段はオリジナルは6J5、ここでは同特性の6SN7を用いています。初段と2段目は直結で、初段のプレート電圧と2段目のグリッド電圧を合わせるために、動作点は微妙に調整しているものと思われます。6AU6のプレート電圧は87.3Vと、やや低めですが、五極管は低いプレート電圧でも大きな出力電圧が得られる傾向にあるようです。電源電圧は、285Vです。初段のカソードにはバイパス・キャパシターが無いので、電流帰還がかかっており、ゲインは54倍、34.7dBと(シミュレーションでは)なります。高μ三極管を用いた場合とほぼ同様のゲインですが、その分歪み率の低下を期待しているものと思われます。 オーバーオールの負帰還は、もちろん、初段のカソードにかかります。

歪み率を測定したものは、以下のようになりました。


入力振幅560mVの辺りでクリップが始まるようです。このとき歪み率は0.91%、出力電圧はP-Pで60V、実効値で約21Vとなります。電源電圧が285Vである事を考えると、前回の結果より少しだけ見劣りしますが、直結段があるために動作点が理想的でない、という事もあるかも知れません。クリップまでの歪みは、大部分が2次歪みです。

周波数特性は、次のようになりました。高域の-3dBのポイントは、約160kHzです。


さて、ここでは初段に直流帰還がかかっているので、カソードにバイパス・キャパシターを付け加えて、ゲインを増やすとどうなるかもシミュレートしてみました。回路としては、初段のカソード抵抗にパラレルに220uFのキャパシターを付けただけです。ゲインは108倍、約40.7dBと増大します。オリジナルの回路では、6dBの直流帰還がかかっていた事になります。歪み率は以下のようになりました。


点線はオリジナルのもので、実線が直流帰還の無い場合です。比較すると、直流帰還の無い場合の歪み率はずっと高く見えますが、出力電圧も2倍になっているので、それほどは変わりません。クリップはソフトで、はっきりとは分かりませんが、一応、入力270mV、歪み率1.23%の点を最大出力とすると、このとき出力電圧はP-Pで58.3V、実効値で約20.7Vという事になります。オリジナルの場合と、ほぼ同じ出力が(同様の歪み率で)得られる事になります。そうすると、電流帰還をかける意味は無いように思われますが、違いは、小出力の時の歪みで、負帰還量に応じた歪み率の低下が見られます。ちなみに、高域のカットオフ周波数(-3dBポイント)は、115KHzとなりました。五極管の出力インピーダンスはどちらも高いので、 ゲインが大きいと帰還容量の影響が大きくなるせいでしょう。

2010年12月19日日曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:Altec型のPK分割回路を試みる

前回は、高μの三極管と中μの三極管の組み合わせによるPK分割回路のシミュレーションでしたが、今回は、初段を五極管に取り替えて、いわゆるAltec型の回路を試してみました。増幅段は6AU6、位相反転段は6FQ7という組み合わせで回路を考えました。回路定数は、長真弓さんの記事でも用いられている、抵抗結合増幅回路データの動作例を用いました。回路は以下のようになります。


6AU6の出力にも電圧計を付けて、測定をしています。電源電圧は前回と同様に250V、軽い1MΩの負荷としています。ゲインは173倍、約45dBです。手作業で歪み率のグラフを作成したのが下のグラフです。


このグラフから見ると、クリップ点は入力振幅が220mVの辺りにあり、過渡解析で波形を見ても、そのように見えます。このとき、歪み率は約1.85%、出力の波形の振幅を測ると、P-Pで約73V、実効値で約26V(rms)です。ゲインは非常に大きく取れるのですが、最大出力については前回よりやや低く、少々期待はずれです。長真弓さんの記事では、五極管の最大出力が大きく取れる事を指摘しており、今回の結果とは、やや違うニュアンスになります。もっとも、五極管はシミュレーションをしていても、けっこうデリケートで、スクリーングリッド電圧の設定など、微妙な違いで特性が変わり、難しい部分があるようです。実装した回路では、真空管の特性もばらつくし、かなり違う結果になるのかも知れません。でも、P-Pで73Vというのは、実用上は悪くはないかと思います。歪みも、クリップするまでは低めです。

周波数特性は、以下のようになります。カットオフ周波数は約140KHzで、三極管の場合に比べると、電圧増幅段のインピーダンスの高さのために、早く減衰するようです。この辺は、実装すると、何れにせよ大きく異なる部分とは思います。このグラフの緑色のデータは、6AU6の出力電圧で、上下の出力電圧はばらつきはありません。低域のレスポンスの低下は、実は6AU6のカソード・バイパスキャパシターの容量不足です。330μFにすると、低域はほぼフラットになります。


実は、クリップは電圧増幅段で発生しているようなので、6AU6のカソード・バイパスキャパシターを省略し、電流帰還をかけてみました。そうすると、ゲインは約67倍と、高μ三極管と変わらなくなるわりに、最大出力辺りでの歪みは減らない感じです。電流帰還をかけるのは、あまりメリットが無いようです。

結論としては、(この回路、このシミュレーションでは) 五極管を使うメリットは高いゲインにあり、最大出力はあまり大きく取れない、という事のようです。五極管は動作点の設定が難しく、もっと追求してみる必要がありそうです。

2010年12月18日土曜日

真空管とSPICEで遊ぶ:7247によるPK分割回路のシミュレーション

SPICEと言えば、バークレイで開発されたアナログ回路シミュレーターな訳ですが、SPICEで真空管アンプを解析、設計するというのは、一部では盛んに行われているようです。この手の情報サイトとしては、Duncan Ampなどが有名と思いますが、日本では中林歩さんが多くの真空管のモデルを作成して、活発に活動しているようです。中林さんは、「真空管アンプの「しくみ」と基本」」という本を出版されていて、そこにはTINA7という商用のSPICEパッケージの、真空管関係の部品のモデルが組み込まれた機能限定版が付録で付いています(SPICE自身はフリーですが、これ自体はFortranのコードなので、使いやすいようにフロントエンドを組み合わせたソフトが、フリー、あるいは商用でいろいろ出ています。有名なのは、商用ではPSpice、無料ではLTSpiceでしょうか)。最近買って、試し始めたのですが、結構楽しめます。回路規模の限定が厳しくて、真空管2本でトランスなし、というくらいの回路までしかシミュレートできません。アンプのシミュレーションをして設計しよう、という場合には、フリーで機能限定の無いLTSpiceに部品のモデルを組み込むなどするのが、現実的でしょう(フル機能版のSPICEパッケージは、どれも個人で買うにはためらう価格です)。

上に書いたように、回路規模の限定が厳しいのですが、小さな回路でも、真空管回路の実験が気軽にできるので、動作の解析をするには、かなり有用と思います。真空管アンプの設計において悩ましい(あるいは面白い)題材として、プッシュプル・アンプの位相反転回路があります。いろいろな回路が提案されているのですが、裏を返せば、どれも一長一短という事のようです。「無線と実験」の2003年12月号に、長真弓さんが、位相反転回路について実験・測定をした、とても興味深い記事を書かれています。何種類もの位相反転回路を組み立て実験結果を載せられているのですが、上記のTINA7で、その中の6FQ7と12AX7を用いたPK分割回路のシミュレーションをしてみました。1、2割はズレるのですが、おおむね合致しており、割合と正確に真空管の特性をシミュレートできているようで、感心しました。

長真弓さんの試した回路は、増幅段と位相反転段の両方に6FQ7、あるいは12AX7を用いた回路なのですが、電圧増幅段に12AX7、位相反転段に6FQ7を用いると、高い増幅率と、高い出力電圧が得られて、けっこう良さそうに見えます。実際上は、12AX7と6FQ7を1ユニットずつ組み合わせるのは、やや使いにくいのですが、12AX7のユニットと、6FQ7に似た特性の12AU7のユニットを組み合わせた、7247(あるいは12DW7、ECC832)という真空管があります。7247は、あまり一般的な真空管ではないようですが、現在でもスロバキアのJJで生産されています。12AU7は6FQ7に比べると非力で、直線性も良くないのですが、強力に負帰還の掛かった回路ですし、定数を少し工夫すれば、12AU7でも高い出力電圧が得られるはずです。という事で、7247によるPK分割位相反転回路でどのくらいの性能が得られるのか、試してみる事にしました。試行錯誤で定数を決定して、以下のような回路でシミュレーションをしました。電源電圧は250Vです。

結局、6FQ7を位相反転段に用いた場合の回路から定数を変更したのは、カソード抵抗だけです。これで、歪率を測定してみました。測定周波数は、1kHzです。(歪率測定は、自動的にステップ測定は出来ないようなので、電圧ごとにフーリエ解析で歪率を測定し、手でデータを入力して別のソフトでグラフを書かせました。それなりに手間のかかる作業です。)


横軸は入力信号ですが、実効値ではなくて振幅ですから、実効値(rms)にするには、1.41で割る必要があります。増幅率は約53倍、34.5dBです。このグラフからも読み取れるように、出力がクリップするのは入力が約800mVの時で、出力はP-P(peak to peak)で約86V、実効値でだいたい30Vの出力が得られます(過渡解析を用いて、波形から確認できます)。 このとき歪率は2%、ほとんどが2次の高調波で、初段の12AX7で発生している事が伺えます。クリップするまでの歪率がほとんど2次の高調波な事は、歪率がほぼ入力レベルに比例している事からも分かります(3次高調波は、おおむね入力レベルの2乗に比例するはずですから、両対数グラフでは傾きが変わります)。初段の定数を工夫すればもっと歪みを減らせるかも知れませんが、このままでも、けっこう悪くないように思われます。

周波数特性は、簡単にシミュレートできて、以下のようなグラフが得られます。とは言っても、低域は出力段の時定数で決まり、高域の低下は位相反転段の入力容量によるものだけしか反映されていません。このグラフ上でのカットオフ周波数(-3dBポイント)は440kHzくらいです。かなり広帯域に見えますが、実際には、出力管の入力容量、そして出力トランスによる高域の低下がもっと影響が大きいはずです。(シミュレーションをしようとしても、お試し版のTINA7では機能制限に引っかかって、出来ません。)


 この回路が、このままで実用になるかは良く分かりませんが、シミュレーション上は、6BQ5や6V6のプッシュプル出力段はもちろん、6CA7や6L6-GCでも十分ドライブできそうに見えます。実際の回路では、電源電圧ももっと高くできますし。

初段を5極管にしたAltec型の回路ではどうなるかなど、この規模のシミュレーションでも、いろいろ遊べそうです。(12/19に歪み率のグラフを差し替えました。)

2010年12月17日金曜日

TDA7491KIT(ケース加工編)


しばらく前に購入して基板は製作していた、カマデンのTDA7491というD級アンプのキットを、ケースに入れて使えるようにすることにしました。キット自体の製作は、とても簡単です(もの足りないくらいです)。表面実装部品は、取り付け済みでした。基板上にパターンがあるのに付属はしていなかった、コネクターも付ける事にしました(「オーディオ」的にはいろいろな考え方がありますが、コネクターを用いると、いろいろ便利です)。ケースは、基板に比べると大きめですが、タカチのYM-180にしました。小さいと言えどもパワーアンプで、入出力端子をあまり詰めたくないので、手頃な大きさと思います。アルミの1mm厚で加工しやすい(したがって強度のあまり無い)定番のケースです。

いちおう、穴空け位置を製図して、ケースに貼り付けてポンチで位置決めをして加工しました。


穴あけを終わると、こんな感じです。不器用なので、もちろん穴の位置は正確ではありません。今回は、ハンドドリルから電動(ドライバー)ドリルに替えたので、ちょっと楽でした。実際の作業の大部分は、リーマーとヤスリでの作業です。


部品も取り付けてみました。



もうここまで来ると、配線をするだけです。始めてしまえば、すぐなのですが、段取りをして実際に作業に入れる日は未定です。

2010年12月16日木曜日

こんなスピーカーを作りたい:DCU-F131Pのトールボーイ・バスレフ


PARC Audioに、DCU-F131Pという13cmフルレンジ・ユニットがあります。ずっと興味はあったのですが、設計者の方(社長さん)のブログで「自信作なのに製造中止になる」というお話を読み、急いで購入しました。真っ黒でかっこいい、パルプコーンのダブルコーン・ユニットです。手頃な大きさのユニットなので、狭い住宅で使うのに便利な、トールボーイ型のスピーカーを作りたいと思っています。

ちょっとspedでシミュレーションをしてみました。こんな感じです:


容積は大きめで、13センチユニットにしては、低域が伸びた感じになります。これに、215mmx300mm(t30mm)の底板を付けて、フロアタイプにします。バッフル幅を出来る限り小さく(150mm)して、小口径ユニットならではの定位の良さを狙いました。実際の高さは、補強の分を考慮して、もう数センチ少し高くします。このチューニングで、ポリプロピレン・コーンのDCU-F131PPでも(多分)大丈夫そうです。ダクトはfd=57Hzで、塩化ビニール管のHI-VP50を使い、長さは45mm、ダクト長は60mmとなります。

板取は、15mmのサブロク合板1枚を目一杯使います(奥行きは、最初は220mmの予定だったのですが、板取の関係で5mm縮めました。容積は十分あるので大丈夫です)。こんな感じで、補強材もいくらか取れます。補強が足りない感じならば、あり合わせの端材も使って補強します。


近いうちに作りたいと思っているのですが、どうなるかは良く分かりません。設計をした、というだけのメモです。

2010年12月15日水曜日

LS-VH7のデスクトップ・スピーカースタンド

小型スピーカーは、デスクトップにおいて使う場合も多いのですが、デスクにそのまま置くと、かなり悲惨な音になる事が多いようです。それには、いろいろな理由があると思いますが、卓上面の反射が大きな原因だろうと思います。最近のPC用のスピーカーには、バッフルに傾斜を付けている例を見かけますが、かなり効果があるのだろうと思います。

今回は、ケンウッド・ソーテックのブランドで売っていたデスクトップ・オーディオシステムのスピーカー、LS-VH7をもう少しうまく鳴らそう、という事で、スタンドを作る事にしました。数年前に安売りで、申し訳ないような価格で購入したものです。セットのCDレシーバー部分は他の所で使っているのですが、スピーカーは寝かせてありました。でも、結構しっかりしたスピーカーシステムですし、Topping のTP-10Mk4を買ったのを機会に、少し使ってみる事にしました。

LS-VH7のスピーカー台については、インターネットを探してみると、100円ショップの寿司台と調味料入れで作る、という様な気も利いたものも有ったのですが、僕は平凡にラワン合板で作る事にしました。木材は、300mmx910mm, t24mmのカットのラワン合板から、柱部分になる140mmx140mmを4枚と、天板、底板の150mmx250mmを4枚カットしてもらいました。材料費は、カット代も入れて2000円弱でした(東急ハンズ)。下の写真は、片チャンネル分の材料です。


柱部分は、合板を2枚張り合わせます。一応、隠し釘とハタガネを使って固定してはりあわせました。(あまりきれいには出来なかったのですが。)


あまり手をかけたくなかったのですが、板の状態で、あり合わせの水性ポアステイン(オリーブ)で着色、サンディングシーラーで目止め、水性ウレタンニスを2回ほど塗って仕上げました。これだけで4晩の待ち時間が入る事になります。MDFで仕上げなし、という方が、すぐ完成して合理的だったかも知れません。下の写真は、仕上げ中の乾燥待ち状態です。


仕上げが終わってから組み立てて出来上がりです。高さ188mmの小さなスタンドです。天板のサイズは、LS-VH7に合わせて150mmx250mmです。底板も同じサイズにしました。


でき上がって、スピーカーを設置した所は、こんな感じです。


音については、もちろん、机の上に置いた時よりは、ずっとすっきりとした音に聞こえます。視覚的にはやや高すぎる感じもありますが、僕の好みとしては、(音については)位置が高めの方がいい感じがします。デスクで作業している時に音を出すと、聴取位置が近すぎてきつい感じもありますが、これは仕方のない部分でしょう。やや離れて座って、ぼんやりと音楽を聴くのに向いています。

2010年12月5日日曜日

Vacuum Tubes Gallery

真空管の写真を少し、ウェブページの方に整理しました。


写真を載せた真空管は、東芝 12AT7WA東芝 12AU7東芝 21LU8JJ ECC83SJJ EL84GE 5670ECG 5687WBSylvania 5814ANational 6FM7、となっています。

ありふれた真空管の写真ですが、いつでも見られると、ちょっといい気分です。(自分のための写真集です。)

2010年12月4日土曜日

Fostex FF-WK シリーズ:スペックからの考察 (5) 20cmユニット編

20cmフルレンジというのは、フルレンジとしては大口径で、ツイーターが必要とされるのが普通と思います。フォステクスの新旧20cmフルレンジ・ユニットのスペックを比較してみましょう。

ユニット名 f0 m0 Q0 音圧レベル マグネット重量
FF225WK 44Hz 18.4g 0.35 93dB 1067g
FF225K(旧) 40Hz 17.3g 0.2 96dB 1067g
FE206En 45Hz 12.2g 0.19 96dB 1067g
FE207E(旧) 40Hz 15g 0.26 95dB707g
FE204(旧) 45Hz 14.6g 0.23 95dB 848g
FE208EΣ 42Hz 13.3g 0.18 97dB 1408.7g
F200A 30Hz 18.6g 0.33 90dB 607g(アルニコ)
LE8T-H(参考) 45Hz 16g 0.56(Qts) 89dB 2800g(注)

参考に、JBLの名器とされるLE8Tのスペックも調べてみました。(注)マグネット重量の所に2800gと入れてありますが、これは“Magnet Assembly Weight”ということで、たぶん、ヨークなどの重量も含まれているのでしょう。マグネットサイズから予測すると800gくらいだろうと思いますし、スペックからしても、特に強力な磁気回路ではなさそうです。

FF225WKは、シリーズの他のユニットと同様に、旧FFシリーズに比べて振動系がやや重く、Q0を高めにチューニングしている、という事のようです。マグネットが同じサイズの割にQ0はずいぶん大きくなっているのですが、エッジやダンパー、ボイスコイルの辺りで大幅に変えた所があるのでしょうか? 音圧レベルも3dB/Wも減っており、低域は少しマイルドになっていそうです。高域のレスポンスには、いくつかピークが見えますが、超高域までは(もちろん)伸びていません。

FE204(あるいは、性格の似たFE207E)は、長岡鉄男氏のフロア型スピーカーの作例の中で、重低音ならぬ、「軽低音」を出すためのフルレンジ・ウーファーとして多用されていました。それらのユニットと比べると、FF225WKは、f0は同じくらいですが振動系もそこそこに重く、Q0もやや高めで、フルレンジ・ウーファーとして使い易そうです。ダブル使いで2ウェイを作るのにも、ぴったりな感じですし、FE207Eも廃番になった現在では、貴重なユニットだと思います。

一方、LE8Tと比べてみると、まだまだダンピングの強いユニットに見えます。灰山アキラ氏は、「入門・スピーカー自作ガイド」(電波新聞社、2008)の中で、FF225Kを用いた2ウェイスピーカを試作して、外見は似ているけれど、「LE8Tとは対照的な性格の持ち主でした」と書かれています。FF225WKは、もう少しLE8T寄りになったかもしれないけれど、まだまだハイスピードな強力ユニットでしょう。上のリストから、現行でLE8Tの代わりになりそうなユニットを探すと、f0が30Hzと飛び抜けて低い、F200Aでしょう。でも、外見はずいぶん違いますし、価格的にも、かつてのLE8T並みに「高嶺の花」という感じがします。指定箱も45Lくらいと、LE8Tと近い使い方が指定されているようにも見えますし、大きめなボックスでどんな音がするのか、聞いてみたい気がします。

FF225WKの推奨エンクロージャーは、(少し不思議な気もしますが)FF225Kの推奨エンクロージャーの45Lから27Lと、大幅に小さくなっていて、一方、ポートの共鳴周波数は44Hzから39Hzへと、やや低くなっています。このサイズなら、サブロク合板1枚で2本作れて、経済的です。置き場所も見つけやすいし、世情に合った、現実的な設計なのかも知れません。

2010年12月3日金曜日

Fostex FF-WK シリーズ:スペックからの考察 (4) 16cmユニット編

16センチ・フルレンジ、ロクハン(6.5インチ)というのは、かつてはフルレンジ・スピーカーの代名詞でした。三菱のP-610や、パイオニアのPE-16などのシングルコーン・フルレンジが、オーディオの入門スピーカーとして広く使われていました。これらは、いずれも軽い振動系に弱めの磁気回路で、大きなエンクロージャーを必要とするスピーカーでした。現在は、こういうスピーカーは主流から外れていますが、16センチというのがフルレンジ・スピーカーのひとつの典型である事は変わっていないと思います。では、新しいFF165WKは、他のユニットに比べてどういう性格を持つのでしょうか。

ユニット名 f0 m0 Q0 音圧レベル マグネット重量
FF165WK 50Hz 9.5g 0.34 92dB 848g
FF165K(旧) 40Hz 7.8g 0.2 94dB 600g
FE166En 53Hz 6.8g 0.25 94dB 600g
FE167E(旧) 50Hz 6.9g 0.31 94dB362g
FE168EΣ 51Hz 8.7g 0.26 94.5dB 721g
DCU-F171P(参考) 35.65Hz 12.236g 0.209(Qts) 91dB 650g
P-610(参考) 80Hz 6.5g 0.8 94dB ?

参考に、PARC Audioの17センチ・フルレンジユニットと、ダイヤトーンのP-610のデータも載せました。フォステクスの16センチ・ユニットの a(有効振動半径)は、FE168EΣ以外は6.5cm、FE168EΣは6.0cm。取り付け寸法も、FE168EΣだけ少し異なる以外は、他は同じです。

フォステクスの16センチ・フルレンジユニットは、FE167Eがややマグネットが小さい以外は、どれも強力な磁気回路を持っている事が分かります。その中でも、FF165WKはいちばん大きなマグネットを用いています。m0もいちばん大きいのですが、FE168EΣとそれほど違う訳ではありません。それなのに、Q0が大きいのは、エッジやダンパーの違いから来るものかも知れません。何れにせよ、FF165WKは、強力な磁気回路を持ち、重めの振動系でバスレフ向きにチューニングした、という事なのでしょうが、Q0が0.34というのは、決して大きくはありません。f0が50Hzというのも、それほど低くはありません。「FF165Kよりはバスレフ寄りにチューニングしたけれど、やっぱり強力なオーバーダンピング・ユニット」という印象を受けます。それでも、(僕のロクハンのイメージからは)やや大きめのバスレフ箱に入れて鳴らしてみたい気がします。FF165WKの推奨エンクロージャーの容量は17.6L、fd=54Hzとなっています。FF165Kの推奨エンクロージャーは大きめで、容量約25L、fd=56Hzでしたので、小さめのボックスにした事になります。

それにしても、弱めの磁気回路を持つとされるFE167Eでも、かつてのロクハンから比べると、ずっとオーバーダンピング型です。P-610などは、 0.8前後のQ0を持っています。だから、平面バッフルや大型の密閉箱でもバランスが取れたわけです。もう少し、バリエーションがあってもいい感じもしますが、現在でもPARC Audioなどの他のメーカーもあるわけですし、これがFostexの持ち味なのでしょう。

2010年12月2日木曜日

Fostex FF-WK シリーズ:スペックからの考察 (3) 12cmユニット編

12センチ・フルレンジユニットというのは、フォステクスのカタログには沢山あり、選択に迷うほどです。現行のユニットと、代表的な旧ユニットのスペックを表にしてみます。

ユニット名 f0 m0 Q0 音圧レベル マグネット重量
FF125WK 67Hz 5.0g 0.42 89dB 388g
FF125K(旧) 70Hz 4.0g 0.25 92dB 420g
FE126En 83Hz 2.8g 0.3 93dB 440g
FE127E(旧) 70Hz 2.9g 0.43 91dB160g
FX120 65Hz 5.3g 0.46 89dB 330g
F120A 65Hz 4.7g 0.45 89dB 211g(アルニコ)
DCU-F131PP(参考) 62.33Hz 5.693g 0.444(Qts) 90dB 400g
DCU-F131W(参考) 48.6Hz 7.487g 0.545(Qts) 87dB 400g

参考に、PARC Audioの13センチ・フルレンジユニット2機種のデータも載せました。フォステクスの12センチ・ユニットの a(実効振動半径)は、すべて4.6cmです。(旧)とあるのは、旧モデルです。取り付け穴の寸法は、だいたい全部同じです。

こう比べてみると、FF125WKと、FX120、F120Aの類似性が明確に分かります。FF125WKは、やや磁気回路が強力で、Q0が低めな感じですが、違いは10%程度ですから、個体差の範囲でしょう。 もともと、FX120とF120Aは、磁気回路の素材(フェライトとアルニコ)を除けば殆ど同じスペックで、同じボックスで共用できる感じでしたが、もうひとつボックスが共用できるユニットが増えた感があります。もっとも、価格的には、FF125WKに比べてFX120は約2倍、F120Aはさらに2倍、と大きく違います。高域特性などを見ると、「普及ユニット」と「高級ユニット」の違いがあるのかな、という印象も受けますが、実際には聴いてみて、好みで決まるレベルかも知れません。F120Aはアルニコ・マグネットという事で、別格の感じがあります。

これらと比べると、FF125K(旧)とFE126Enは、よく似た性格のオーバーダンピング・ユニットです。FF125Kの方が振動系が重くf0も低いのですが、Q0はむしろ低くなっており、ハイ上がりで、どう考えても、どちらもバックロード向きのユニットです(バスレフ向きではありません)。FE126Eが出て、FF125Kの存在理由が無くなって、こういう形のモデルチェンジになったのかな、という印象もあります。

FE127Eは、軽い振動系に弱めの磁気回路の組み合わせで、Q0も手頃で、(よく知られているように)むしろバスレフ向きです。しかし、上の三つのユニットの、強力な磁気回路に重めの振動系、低いf0とは対照的な性格で、大きめのボックスが必要なユニットでしょう。なぜFE127Eがカタログから無くなったのか、という気もしますが、コイズミ無線で、オリジナルの形で後継機(FE127E2)を販売しているようです。

PARC Audioのユニットと比べてみると、DCU-F131PPとFF125WK(したがってFX120、F120A)はよく似た特性のユニットです。一方、DCU-F131Wは振動系が重く、f0もはるかに低く、まるでウーファーのようなユニットです。

推奨エンクロージャーに関しては、以前のフォステクスの(12cmユニット共通の)推奨エンクロージャーは容量9L、fd=74Hzだったのに対し、FF125WKの推奨エンクロージャーは容量は同じくらいで、ポートはfd=57Hzと低いチューニングになっています。共通エンクロージャーは、FEシリーズに合わせてあったのかもしれません。

こう見てみると、FX120の存在理由が希薄になっている感じがします。FF125WKは、FX120を置き換えるユニットになるのかも知れません。

2010年12月1日水曜日

Fostex FF-WK シリーズ:スペックからの考察 (2) 10cmユニット編

新しいFFシリーズには、新たに10cmユニットが仲間入りしました。これは、他の10cmユニットと比べて、どういう性格なのか、興味深いものがあります。

フォステクスの、代表的な10センチ・フルレンジユニットのスペックを表にしてみました。

ユニット名 f0 m0 Q0 音圧レベル マグネット重量
FF105WK 75Hz 3.4g 0.41 88dB 340g
FE108EΣ 77Hz 2.7g 0.3 90dB 400g
FE103En 83Hz 2.55g 0.33 89dB 193g
FE107E(旧) 80Hz 2.6g 0.38 90dB160g
DCU-F121W(参考) 72.4Hz 5.05g 0.514(Qts) 86.5dB370g

参考に、PARC Audioの10cmmフルレンジ・ユニット、DCU-F121Wのデータも載せました。フォステクスのユニットの a(実効振動半径)は、すべて4cmです。(旧)とあるのは、旧モデルです。取り付け穴の寸法は、(値段的にも別格の)FE108Eシグマだけは、少し大きくなります。

FF105WKは、8cmユニットと同様に、FEシリーズと比べてm0が大きく、f0が低い事が特徴的です。マグネットの大きさは、Σを除くFEシリーズよりはずっと大きく、強力な磁気回路を持つ事が分かります。一方、Q0は大きめになり、FE107Eに比べてもバスレフに使いやすい値になっています。面白いことに、FE103EnとDCU-F121Wの、ちょうど中間くらいの特性になっています。やはり、FEシリーズに比べると、小さめのバスレフ・ボックスに入れられる、使いやすいスペックのユニットのようです。FE103Enの推奨エンクロージャーが容量6.8L、fd=95Hzなのに対して、FF105WKの推奨エンクロージャーは容量6.4L、fd=72Hzとなっており、ポートのチューニングがかなり低くなっています。

周波数特性は、7KHzにかなり大きなピークがあるのが気になりますが、高域はよく伸びています。価格も手頃ですし、気軽に箱を作って試せそうなユニットです。